著者
木村 知博
出版者
Japanese Society for Aquaculture Science
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.119-127, 1999-03-20 (Released:2010-03-09)
参考文献数
25

1) 広島湾の溶存酸素量の変動は, 植物プランクトンの同化量, 呼吸量 (分解量) によって最も影響を受ける。中・下層の光合成には上層の植物プランクトンの増殖が関与する補償深度が介在している。2) 広島湾の主要点で成層期の水深別溶存酸素量の経年変化をみると, 補償深度を挟みその上下の層でその変動に差が生じている。また, この経年変動は, カキ養殖場の底質の自己汚染と関係なく, 海水交流のない広い範囲で高い相関がみられた。3) 底層水温が低めの年には, 中・底層の溶存酸素量は少なくなる傾向が窺えた。これは表層塩分の低下がもたらす成層発達により海水混合が起こりにくくなることと, 植物プランクトン増殖による透明度の低下で補償深度が浅くなり中・下層の溶存酸素量の低下を促進すること, さらには増殖したプランクトンの下層水中での分解などが考えられた。4) 広島湾のカキの成育の低下の主原因は, 沿岸域では都市・工場廃水の流入と海水交換の不良による水質悪化, 加えて年々の河川水, 気象条件による水質汚染域の拡大であり, 島嶼部では1985年頃からその兆候がみられた貧栄養の沖合系海水の卓越によると考えられた。また, 出荷カキの大きさの年変化は秋から冬のクロロフィルa量との関係がみられた。5) 広島湾周辺のカキ養殖場の海水の溶存酸素量の変動は, 底泥よりも植物プランクトンを主とした懸濁物の酸素消費の影響が強い。特にカキ排泄物の酸素消費の寄与率は低いと推算された。したがって, 養殖場の自己汚染による底泥悪化→低酸素水塊の発生→カキの成育低下という過程のいわゆる「漁場老化現象」は特異的な局地での現象と思われる。

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