著者
石社 修一
出版者
公益財団法人 竹中大工道具館
雑誌
竹中大工道具館研究紀要 (ISSN:09153685)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.3-68, 2014 (Released:2021-03-20)
参考文献数
18

本稿は、越後与板の鑿鍛冶である船津祐司の鍛冶技法を記録したものである。船津は[舟弘]銘で全国の一流の大工職人から高い評価を得ている。船津の仕事は、大工道具産地の与板での伝統的な技法と合理的な技法の上に、科 学的な研究を積み重ねたものである。 本調査では、12日間の日常通りの作業工程を記録した。また同じく鍛冶を職業とする調査が詳細に記録を試みた。以下に調査結果の概要をまとめる。 1 鋼は白紙1号の中でも高炭素のものを好んで用いる。その火造りは、コークス炉での鍛接・鍛造の後に、電気炉で4回にわたり段階的に加熱温度を下げながら繰り返す丁寧な鍛錬で、金属組織を微細化している。 2 整形作業は、グラインダーとペーパーバフを効率的にこなす。その一方で、最後はセン床にあぐらをかき、鑢がけを行う鑿鍛冶の昔からの流儀で仕上げる。 3 松炭を用いた焼入れは、暗闇の中で行う。幅寸法の異なる、鑿の1分から1寸4分までの全てが均一に赤められ焼入れされた、まさに熟練の技術といえる。焼戻しは、電気を熱源とした油もどしで行う。 4 3週間の調査期間中に焼入れされた製品は、大入鑿43本・叩鑿など5本・小鉋1枚・平鉋3枚の合計52点であった。 5 鑿鍛冶の枠にとらわれず、鉋など幅広く大工道具を手掛けている。その鍛冶技法は、師である碓氷健吾の科学的データを蓄積した知見に、自らの実証実験からの経験を重ねたものである。本稿は船津65歳という円熟期の記録だが、大工との技術研究から更なる改良をも続けている。

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