著者
井出 純哉
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.381, 2004 (Released:2004-07-30)

鳥は蝶の成虫の重要な捕食者と考えられている。しかし、捕食の場面を観察できることはまれなので、実際どの程度の捕食圧が蝶にかかっているのかは明らかではない。鳥が蝶を捕獲しようとして失敗した時に、蝶の翅に鳥の嘴の痕(ビークマーク)が残ることがあるが、その頻度は鳥の捕食圧の推定に利用できると考えられる。そこで、ジャノメチョウ亜科の蝶のクロヒカゲの翅に残されたビークマークを三年間にわたって京都市北部の山地で調査し、鳥がどれくらいクロヒカゲの成虫を襲っているか推定した。本種の成虫は5-6月の初夏世代、7-8月の盛夏世代、9-10月の秋世代と、一年に三世代が出現する。樹液を餌としており、暗い所を好むので通常は林内に分布するが、気温が低い時期には比較的明るい場所に出てくることも多い。翅に嘴の痕が残っていた個体の割合は初夏と盛夏には数%から十数%だったが、毎年秋になると増加し50%に達することもあった。蝶の成虫は捕獲しにくく、見た目の大きさの割に食べる所が少ないので、鳥にとって良い食料ではないと思われる。そのため、鱗翅目幼虫などのもっと好ましい餌が少なくなった秋によく襲われたと考えられた。また、秋になって気温が下がり、蝶の動きが緩慢になったことが襲われやすさに影響した可能性もある。雄と雌を比べるとわずかずつではあるが雌の方が一貫してビークマークのついた個体の割合が多かった。雌は卵を抱えている分腹部が重いためゆっくりとしか飛べないので、雄よりも襲われやすかったのかもしれない。

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