著者
松尾 洋
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.829, 2004 (Released:2004-07-30)

樹木の種子生産数の年変動は、その種子を産卵場所とする昆虫の個体群動態に多大な影響を及ぼす。特に、ほとんど種子生産がなかった年は致命的である。昆虫の休眠遅延(1年以上の休眠)はそのような予測不可能な変動環境に適応した現象として、様々な分類群で知られている。エゴノキの種子に産卵する年1化のエゴヒゲナガゾウムシもまた終齢幼虫の段階で休眠遅延を示す種である。これまでの研究から、1)室内・野外環境において同じコホート内で休眠年数に1〜4年の変異が存在し、2)2年目に羽化した個体は1年目に羽化した個体よりも大きいことがわかっている。大きな個体ほど休眠遅延する傾向は他の昆虫でも報告されているが、体サイズと相関のある他の要因が重要である可能性も残されている。本研究では、体サイズだけでなく、産卵時期および幼虫期の食物の質・量が休眠遅延率(休眠延長個体の割合)に与える影響を調べた。7月28日、8月1日、10日、20日の4回、果実のついた枝に網をかけ、雌10〜21個体に個別に産卵させた。終齢幼虫の生重および幼虫が発育した種子の体積を測定し、室内環境下で飼育し、羽化させた。また、幼虫の体サイズに影響をおよぼす、種子の体積・生重・乾重を繁殖期間を通して測定した。その結果、次の事が明らかになった。1)羽化個体と休眠延長個体が同じ母親から生じた。2)繁殖期後期に産卵された幼虫は前期に比べて終齢幼虫サイズが増加し、休眠延長率も増加した。また、3)繁殖期間中、種子の体積はほとんど変わらなかったが、種子の乾重は3倍以上に増加した。これらの結果から、エゴヒゲナガゾウムシでは、繁殖期後期に、十分成熟した種子に産卵された個体ほど休眠遅延する傾向があることがわかった。「寝る子は育つ」ではなく「育った子はよく寝る」である根拠を示すとともに、なぜ大きな個体が休眠遅延するのかを考察する。
著者
繁宮 悠介
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.322, 2004 (Released:2004-07-30)

カニ類では、ハサミ脚の大きさや形態が左右で異なる現象が頻繁に見られる。ハサミ脚の左右性は、シオマネキ類やカラッパ類で特に顕著であるが、このような形態的非相称性は、左右のハサミの機能分化と関係しており、特殊化した側のハサミ脚は、シオマネキ類では配偶者獲得のため、カラッパ類では巻貝捕食のためというように、各種の特徴的な行動や生態と密接に関連している。 左右性が見られるカニ類の多くの種では、個体群中に右利きの個体と左利きの個体の両者が共存する。左右性の発現は、遺伝的に決定されていると考えられることから、鏡像関係にある二者が、自然選択によって個体群中に維持されていることになる。 この研究では、サワガニにおける左右性多型が、どのようなメカニズムによって維持されているのかを解明することを目的とする。サワガニはオスでのみ片側のハサミ脚が大型化し、右利き個体が7_から_8割を占める。まず、オスの大型化したハサミが、採餌においてどのように使われるかを調べるために、実験室における採餌行動を観察した。次に、10余りの個体群において、どちらの体側の付属肢が失われているかを調べ、オスの左右性が付属肢欠失にあたえる影響を明らかにした。最後に、各個体群の左右比が、附属肢欠失個体率や性比などの個体群特性のどれと相関を示すのかを調べた。これらの調査から得られた結果を総合して、多型維持メカニズムについて議論する。
著者
本間 淳 西田 隆義
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.656, 2004 (Released:2004-07-30)

自切は、捕食者に襲われた際に体の一部を犠牲にして捕食を回避する行動であり、いくつかの分類群においてみられる。自切の研究は、自切後の個体の運動能力に及ぼす影響について主にトカゲにおいて研究がなされてきたが、昆虫類におけるそれは、ナナフシ等における自切後の組織再生の生理的研究に限られてきた。そこで本研究では、後脚の切断という明らかに大きなコストを負いそうなバッタ類(ヒシバッタ)の自切行動が、その後の運動能力にどの程度影響してくるのかを定量化した。また、その際、捕食者に対する防衛戦術の異なる(行動的防衛と物理的防衛)近縁種の比較によって、自切行動の、他の捕食回避戦術への影響を評価した。その結果、どちらの種においても跳躍能力に関しては、明らかな低下が見られた。しかし、巧みな跳躍(行動的防衛)により捕食回避を行うハラヒシバッタは、跳躍前の動きによって、その低下を補うという行動の変化が現れた。一方、非常に固い前胸背板や側棘物理的防衛)を採用しているトゲヒシバッタでは、じっとして跳躍による回避を遅らせるという変化を見せた。これらの結果は、自切のコストを、おのおのが採用している防衛戦術に合わせて補っていることを示している。
著者
井上 牧子 遠藤 知二
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.307, 2004 (Released:2004-07-30)

京都府京丹後市の箱石海岸では、今までの野外調査から8種のツチバチ類が生息し、それらの生息密度もきわめて高いこと、またいくつかの海浜植物ではツチバチ類が重要なポリネーターとなっていることなどが明らかになった。このように、ツチバチ類が海岸砂丘域において多様で高密度に生息できる要因のひとつは、それらのホストであるコガネムシ幼虫の多様性や生息密度の高さにあると考えられる。しかし、ツチバチ類成虫の地中での生態はほとんどわかっておらず、ホスト利用や寄生行動に関しても、ごく断片的な知見しか得られていない。そこで本研究では、同海岸でも特に個体数の多い、オオモンツチバチ、キオビツチバチ、ヒメハラナガツチバチの3種について、飼育個体を用いた寄生実験と寄生行動の観察を行った。実験にはシロスジコガネ、サクラコガネ属、ハナムグリ類の幼虫を用い、飼育容器にツチバチ類とコガネムシ幼虫を1個体ずつ入れ、1日後に寄生の成否を確認した。その結果、オオモンツチバチはシロスジコガネ(寄生成功率38%)に、キオビツチバチはハナムグリ類(50%)に、ヒメハラナガツチバチはサクラコガネ属の2種(ヒメサクラコガネ22%、アオドウガネ71%)とシロスジコガネ(5%)に寄生し、これら3種のツチバチ類ではホスト種が異なる傾向がみられた。各種ツチバチ類とそれらが実験下で利用したホスト種は、実際に同海岸における生息場所の分布が大きく重複しており、それぞれのコガネムシ幼虫が野外でも主要なホストとなっていると考えられる。また、利用したホストサイズについてみると、オオモンツチバチとヒメハラナガツチバチではホストサイズの幅が広く(オオモンツチバチ0.48g-2.92g、ヒメハラナガツチバチ0.36g-2.21g)、これはツチバチ類成虫の体サイズの性差と関連していると考えられる。さらに各種の攻撃行動の観察結果をもとに、攻撃行動の特徴や種間の相違についても報告する。
著者
佐々木 健志
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.283, 2004 (Released:2004-07-30)

沖縄島北部の山地には、イタジイを優占種とするオキナワウラジロガシ、イスノキなどからなる常緑広葉樹の森林が広がっている。このうち、イタジイやマテバシイ、オキナワウラジロガシなどのブナ科植物が生産する大量の堅果は、様々な動物の重要な餌資源となる一方で、動物による堅果の加害や散布がこれらの樹木の更新や分布の拡大に様々な影響を与えている。今回、ネズミ類の巣穴調査中に偶然発見された、サワガニ類によるブナ科堅果の貯食行動に伴う種子散布の可能性について報告する。 当地域には5種類のサワガニ類が生息しており、水への依存度の違いにより活動空間の異なることが知られている。このうち、林床で活動することが多いオオサワガニの5例と主に水辺で活動するオキナワミナミサワガニの1例で、イタジイ堅果(1例のみオキナワウラジロガシ)の巣穴での貯食行動が確認された。両種とも、巣穴は沢の流底から0.4_から_5m離れた谷の斜面部に直径葯10cm、長さ40cm程の坑道が水平に掘られていた。ファイバースコープで巣穴内の個体が確認できた6例中、雌雄の識別ができなかったオオサワガニの1例を除き全てメスで、体サイズも40mm以上と全ての個体が成体と考えられた。このことから、堅果の貯食行動は高栄養の餌を必要とする産卵前のメスに特有の行動である可能性が高い。巣穴内の堅果は、底の一部を残して種皮ごと食べられるか、縦方向に割られ中身のみが食べられるかで、同様の採餌痕は室内実験でも確認された。食べ終わった種皮は、巣穴の入り口近くに多く貯められており、各巣穴で63_から_168個の堅果が確認された。また、これらの中には未食の堅果が1_から_22個含まれており、一部に発芽が見られたことから、サワガニ類が、種子が定着しにくい谷の上部斜面への種子分散を行っている可能性が示唆された。
著者
寺西 眞 藤原 直 白神 万祐子 北條 賢 山岡 亮平 鈴木 信彦 湯本 貴和
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.482, 2004 (Released:2004-07-30)

ホトケノザは、主に他花受粉をおこなう開放花と自家受粉のみをおこなう閉鎖花を同時につける一年草で、種子にエライオソームを付着する典型的なアリ散布植物である。一般的に、自殖種子は親と同じ遺伝子セットを持つため、発芽個体は親と同じ環境での生育に適していると考えられ、他殖種子は親と異なる遺伝子セットを持つため、親の生育環境と異なる新しい環境へ分散・定着するのに適していると考えられる。したがって、自殖種子は親元近くへ散布され、他殖種子は親元から離れた環境へ散布されるのが生存に有利であると考えられている。 開放花由来種子は閉鎖花由来種子より種子重・エライオソーム重・エライオソーム/種子(_%_)が有意に大きく、トビイロシワアリによる持ち去り速度が大きいことが明らかとなった。エライオソームを取り除いたホトケノザの種子は、エライオソームが付いたままの種子よりトビイロシワアリに持ち去られる割合・速度が低かった。また、エライオソームを接触させたろ紙片はほとんど巣に持ち去られたが、エライオソーム以外の種子表面を接触させたろ紙片はほとんど持ち去られなかった。 このようなアリの行動の違いがなぜ生じるのかを検討するため、アリの反応に関わる物質・アリの資源となる物質に着目して種子表面の化学的特性を調べた。その結果、遊離脂肪酸(オレイン酸、リノール酸など)、糖(フルクトース、グルコース)、アミノ酸(アラニン、ロイシンなど)が含まれていることが分かった。 これらのことから、ホトケノザは種子表面、特にエライオソームに含まれる化学物質の量・質を繁殖様式によって変えることで、アリによる持ち去り速度をコントロールしている可能性があることが示唆された。
著者
吉本 治一郎 西田 隆義
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.446, 2004 (Released:2004-07-30)

広葉樹の幹から滲出した樹液には多くの昆虫が吸汁のために集まることが知られている。そのような場所では穿孔性昆虫のボクトウガ科Cossidaeの幼虫も頻繁に観察されることから、これらが特に滲出に関係しているのではないかと考えられている(市川 私信)。そこで、本研究において、ボクトウガ類の幼虫が樹液資源の存在様式とそれらに集まる昆虫群集の構造にそれぞれどのような影響を及ぼしているのかについて調査を行った。2002年には全パッチ(滲出部位)の約61%で、2003年には約36%で、幼虫または幼虫の巣の存在をそれぞれ確認した。これらは幼虫の穿孔と樹液の滲出との関係が示唆されたパッチであると言える。幼虫個体数の季節変動は両年とも総パッチ数の変動とほぼ一致したが、後者で若干の時間的な遅れが見られた。また、2002年には、幼虫個体数の増加に伴って樹液食昆虫の種数と個体数が有意に増加した。翌年にも、巣が存在したパッチ(幼虫存在パッチを含む)において、樹液の滲出期間、樹液に覆われた面積(パッチ表面積)ともに幼虫および巣のないパッチを上回っていた。さらに、群集の属性(総種数・総個体数・多様度)に関しても同様の傾向が見られたが、種によってその傾向は異なり、特に、ケシキスイ類、ハネカクシ類、ショウジョウバエ類など、いわゆる樹液スペシャリストに属する種の個体数は、巣のあるパッチの方で顕著に多くなっていた。以上より、ボクトウガ類の幼虫は樹液の滲出を促進し、その分布とフェノロジーが樹液資源の存在様式を規定することが示唆された。さらに、これらは資源を介して群集構造にも間接的に正の効果を与えていることが明らかになった。だたし、これらの効果は種によって異なっていたことから、樹液に対する依存度などの種固有の生態学的特性が相互作用に反映されたのではないかと予想された。
著者
島田 卓哉 齊藤 隆 大澤 朗 佐々木 英生
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.461, 2004 (Released:2004-07-30)

ミズナラなどの一部の堅果には,タンニンが乾重比にして10%近くの高濃度で含まれている.タンニンは,植物体に広く含まれる植食者に対する防御物質であり,消化管への損傷や消化阻害作用を引き起こすことが知られている.演者らは,ミズナラ堅果を供餌したアカネズミApodemus speciosusが,著しく体重を減らし,高い死亡率を示すことを既に報告している.その一方で,アカネズミは秋季には堅果を集中的に利用することが知られているため,野外ではタンニンを無害化する何らかのメカニズムを有しているものと予測される. コアラなどの一部の哺乳類の腸内には,加水分解型タンニンを特異的に分解するタンナーゼ産生細菌が存在し,タンニンを代謝する上で重要な働きを持つことが報告されている. そこで,演者らは,アカネズミ消化管内にタンナーゼ産生細菌が存在するかどうか,存在するとしたらどの程度の効果を持つのかを検討した. タンニン酸処理を施したブレインハートインフュージョン培地にアカネズミ糞便の懸濁液を塗布し,タンナーゼ産生細菌の分離を行った.その結果,2タイプのタンナーゼ産生細菌が検出され,一方は連鎖球菌の一種Streptococcus gallolyticus,他方は乳酸菌の一種Lactobacillus sp.と同定された.野外で捕獲されたアカネズミが両者を保有する割合は,それぞれ62.5%,100%であった.また,ミズナラ堅果を用いて堅果供餌実験を行い,アカネズミの体重変化,摂食量,消化率,及び糞便中のタンナーゼ産生細菌のコロニー数を計測した.その結果,体重変化,摂食量,消化率は,乳酸菌タイプのタンナーゼ産生細菌と正の相関を示し,この細菌がタンニンの代謝において重要な働きを有している可能性が示唆された. さらに,アカネズミのタンニン摂取量,食物の体内滞留時間,タンナーゼ産生細菌のタンナーゼ活性等の情報から,タンナーゼ産生細菌がタンニンの代謝にどの程度貢献しているのかを考察する.
著者
山中 正実 岡田 秀明
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.755, 2004 (Released:2004-07-30)

クマ類は中型以上の哺乳類で唯一冬眠を行うことが知られており、しかも、妊娠したメスは冬眠中に出産と育児も行う特異な生態を持っている。冬眠はクマ類の生活史の中で極めて重要な位置を占めるが、北海道に生息するエゾヒグマでは冬眠穴の立地する環境やその構造について十分な研究は行われていない。本研究では、1989年から2004年の間、知床半島において46例のヒグマの冬眠穴の位置を特定し、内21例について計測を行った。ヒグマの冬眠穴は、樹木の根張りを利用してその下に掘り込むタイプ(ST型)と樹木に依存することなく地面に掘る土穴(S型)に分けられる。また、自然の穴を利用するものは岩穴と樹洞に分けることができる。本研究では冬眠穴のタイプを確認できた25例中20例(80%)がS型であった。また、構造は入り口が一つで、その奧に寝床がある単純な構造であった。入り口から寝床まで直線的は位置されたものが13例(62%)で最多であった。奥行きは平均2.14m、最大幅は平均1.32mであった。知床半島では、冬眠穴は海岸段丘斜面など低標高の海岸部から高山帯のハイマツ帯まで幅広い環境に存在しており、46例中半数の23例は高木層を欠く高山・亜高山植生の地域や海岸段丘斜面にも立地していた。これらはダケカンバを中心とする高木層を持つ上部広葉樹林帯の森林内に冬眠穴が集中的に分布するとした大河(1980)による支笏湖周辺での立地条件と大きく異なっていた。また、知床半島では支笏湖周辺では確認されなかった人間の活動域に近接した場所の冬眠穴や平坦地に掘られた冬眠穴も見られた。また、海外の研究例では、一定の地域に冬眠穴が集中的に分布する事例が報告されており、その要因として個体毎の地域選択性や特定の年の個体群の分布特性があげられている。知床半島でも3ヶ所以上の冬眠穴を確認できた個体について、一定の場所を選択的に使う傾向が見られた。
著者
安田 雅俊
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.492, 2004 (Released:2004-07-30)

赤外線センサーを利用したカメラトラップ法は,ある地域の哺乳類の多様性や個体数を調べる際の簡便で優れた調査手法であり,近年多用されているが,日本の山野で適用する場合の標準手法は未だ確立されていない.本研究では,野生哺乳類のモニタリング調査の標準手法を確立するために考慮が必要な諸条件(調査の時期や期間,使用するカメラの台数等)と解析法について,筑波山での事例をもとに検討した.2000-2003年の3年間に,茨城県筑波山山麓の森林内の固定した5つの観察地点において,生落花生を餌として年4回のべ200カメラ日の調査を行い,中大型哺乳類9種の写真を412枚得た.「ある地域の対象種をある確率で撮影するために必要な調査努力量」と定義される“最小調査努力量”という概念を提唱し,何台のカメラをどのくらいの期間仕掛ければ,対象地域の哺乳類の多様性を調べ上げることができるかをブーツストラップ法を用いて解析した.タヌキ,イノシシ,ウサギ,ハクビシン,アナグマといった主要な5種を対象とした場合,94%の確率で,最小調査努力量は40カメラ日と推定された.得られた結果を総合すると,日本の落葉広葉樹林においては,5台のカメラで4日間,すなわち20カメラ日の調査を晩春から晩夏に2回反復することが推奨される.以上の結論は,一つの調査地における事例から得られたものであり,日本全国に適用可能な標準手法を確立するためには,同様の調査を多地点で行うことが必要である.また,既存のデータを同一の方法で解析することも有益であるため,既にカメラトラップで調査を行っている方々には,本研究の解析方法を開示するとともに,解析結果の共有化を呼び掛けたい.本報告の詳細はMammal Study 29(1)に掲載予定である
著者
笹木 義雄 森本 幸裕
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.414, 2004 (Released:2004-07-30)

鳥取砂丘では、防風林として植栽されたクロマツやニセアカシアが汀線に向かって砂丘内に侵入する現象が見られ、裸地面が減少し、安定化が進行している。本報告では、海浜植生を持続的に管理することを目的に、砂丘の安定化が、群落構造へ与えた影響について明らかにした。 鳥取砂丘の千代川河口付近の汀線から約500mに位置する砂丘列において、1986年に84箇所のコドラート(2.5m×2.5m)を設置した。各コドラートについて、ブラン_-_ブランケットの植物社会学的手法により、コドラート内に生育する植物種とその被度を測定するとともに、基点から各コドラートの標高を水準測量により1986年11月15日に測量した。これより16年が経過した2002年に、同地点について1986年に調査したのと同様な手法で、植生調査と測量を実施した。また、これらの調査結果をTWINSPAN法による分類、DCA法による序列化により比較した。 調査対象地域の植生は、1986年においては、コウボウムギ群落、ケカモノハシ群落、メマツヨイグサ群落の3タイプに分類されたが、2002年においては、これまでに見られた草本群落に加えて、アキグミ群落、クロマツ群落などの木本が優占する群落タイプも見られるようになった。また、種数は、1986年においては、15種であったのに対し、2002年においては、41種と増加がみられた。なかでもこれまで調査対象地域に見られなかった外来種のコバンソウ、マンテマ、ハナヌカススキなどの草本、ニセアカシアなどの木本の侵入が顕著であった。 このまま、砂丘の安定化が続くと海浜植生の優占する群落タイプが減少するとともに、樹林化が進行し、遷移が進行すると予想される。海浜植生を持続的に維持していくためには、調査対象地域周辺を攪乱することで裸地化を図り、砂丘を再流動化させることが必要と考えられる。
著者
伊東 宏樹 日野 輝明 高畑 義啓 古澤 仁美 上田 明良
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.443, 2004 (Released:2004-07-30)

奈良県大台ヶ原において野外実験をおこない、ニホンジカ、ネズミ類、ミヤコザサの3つの要因が、樹木実生の生存に対してどのような影響を及ぼしているのかを評価した。1996年に、ニホンジカ、ネズミ類、ミヤコザサのそれぞれの除去/対照の組み合わせによる8とおりの処理区を設定し、その中に発生してきた、ウラジロモミ(1997年、2002年に発生)、アオダモ(1998年、2002年)、ブナ(1999年)の5つのコホートについて、マーキングして生存状況を追跡した。この結果を元に、それぞれのコホートの実生の生存時間について各処理の間で差があるかどうかをログランク検定により検定した。その結果、(1)すべてのコホートに共通して、シカ除去処理区におけるミヤコザサが生存時間に対して負の影響を及ぼしていることがわかった。また、(2)2002年のウラジロモミを除くコホートでは、ササ除去区において、シカが負の影響を及ぼしていた。一方、(3)アオダモ(1998年、2002年)およびウラジロモミ(2002年)の3つのコホートに対しては、シカの影響は、ササ残存区においては正の効果をもたらしていた。シカ除去処理をおこない、ミヤコザサを残存させた処理区では、ミヤコザサが急速に回復して林床を覆うようになった。(1)の効果は、このためであると考えられる。大台ヶ原のニホンジカは、ミヤコザサを主要な食料としており、ミヤコザサを減少させる要因である。(2)のように、ニホンジカは直接的には実生に対して負の効果をもたらすことがあるが、(3)のように、ミヤコザサを減少させることにより間接的に正の効果を及ぼすこともあることがわかった。ネズミ類除去処理については、顕著な効果は認められなかった。
著者
九鬼 なお子 大窪 久美子
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.365, 2004 (Released:2004-07-30)

本研究は長野県上伊那地方をケーススタデイとして,立地環境の異なる水田地域におけるトンボ群集の構造と季節変化,また立地環境との関係性について明らかにすることを目的とした.調査地域は中山間地(未整備2、整備済1)と市街化地(未整備1、整備済1)の計5ヶ所を選定した.晴天日の午前と午後にルートセンサスを行い,半径5m以内に出現したトンボ目の種名・雌雄・個体数・出現環境・出現位置・行動を記録した.6月上旬から11月上旬まで月に2_から_3回,1調査地につき28回,計140回実施した.土地利用調査は2003年11月に行われた.総出現種は23種,総出現個体数23,150個体で,その分類群構成はイトトンボ科2種,アオイトトンボ科3種,カワトンボ科2種,オニヤンマ科1種,ヤンマ科2種,エゾトンボ科1種,トンボ科12種であった.出現種数及び総個体数は中山間地未整備で多く,市街地整備済みで少なかった.これは池や川,湿地等の多様な水辺環境が存在し、周辺にねぐら等になる林が多いためと考えられた.成虫の成熟段階別の個体数季節変動から各種の移動について考察した.出現種は移動性大(aウスバキトンボ,bアキアカネ)と移動性中(Aノシメトンボ等,Bナツアカネ,Cシオカラトンボ等),移動性小(オオアオイトトンボ等)の3グループに分けられ,さらに小分類された. 出現種の個体数データを用いてTWINSPAN解析を行った結果,調査地域は中山間地と市街地の2グループに分類され,トンボ群集は7グループに分類された.成熟成虫の出現場所と行動の割合から、各種の水田地域の利用の仕方について考察した.種ごとに特定の環境に集中して出現する傾向がみられ,環境を選択して利用していると考えられた.各調査地域では水辺や森林等の立地条件の違いに対応した種群が出現した.また水田地域に生息するトンボの種ごとの特性に応じた季節変動と行動が確認された.
著者
呉 盈瑩 藤田 剛 樋口 広芳
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.659, 2004 (Released:2004-07-30)

日本の南西端に位置する石垣島は、個体数の減少が懸念されている猛禽類サシバの日本における主要な越冬地である。サシバは毎年10月から翌年の3月まで、石垣島の主要な農地環境である牧草地で採食する。演者らは、まず、この地域での越冬期を通したサシバの生息地利用と食物品目などを2002年から2004年に調査した。ラジオテレメトリーや色足環によって個体識別を行ない、のべ6羽の個体追跡を行った結果、すべての個体が越冬期を通して行動圏を農地内に維持していた。一個体の一日の行動圏面積は、越冬期内の時期によって変化し、最小0.09 km2、最大 0.48 km2だった。サシバの越冬期における食物の95%以上がバッタ類であった。サシバは、止まり場に止まり、その周辺で発見した食物動物を採食する、待ち伏せ型の採食様式をとる。調査地のサシバが止まり場として利用したのは、スプリンクラー、電柱、防風林だった。行動圏内の利用様式に注目すると、観察された採食行動の95%は、牧草地での採食だった。牧草地一区画あたりの面積(2700_から_8100 m2)は、サシバの行動圏にくらべて小さく、サシバは、一日のあいだに何度も採食のために待ち伏せする牧草地の選択と放棄を繰り返していた。牧草地では刈り取りが年4回から6回行われているが、この刈り取りの繰り返し期間は牧草の品種、牧草地の立地、栄養条件などによってちがっているため、サシバの行動圏内にはさまざまな草丈の採草地がモザイク状に存在していた。そこで、演者らはサシバによる牧草地の選択と放棄過程に注目し、牧草の刈り取り、草丈、牧草地の配置、待ち伏せ場所であるスプリンクラー数、そして食物であるバッタの密度などが、サシバの採食パッチ選択と放棄にどう関わっているのかを解析した。今回は、これら越冬期におけるサシバの生息地利用と、その利用様式に関わる採食パッチ選択と放棄に影響する要因について報告を行う。
著者
粕谷 英一
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.585, 2004 (Released:2004-07-30)

変数そのものでなくその適当な関数を使ってデータを解析をすることはこれまで広く行われてきた。変数変換の中でも、角度変換(アークサイン平方根変換)などとならんでよく使われてきたのがべき乗変換や対数変換である。べき乗変換の例としては平方根変換などがあり、対数変換もべき乗変換の系列の中に位置付けられてきた。変数変換により、もとのデータの平均値を変換したものと変換後の平均値が異なる、交互作用項が実質的に変化する、変数単独の効果(例、偏回帰係数)が他の変数に依存する、などの不都合で不適切な影響が人為的に生じる。変数変換を用いた過去のデータ解析のかなりの部分は、重要な結論が導かれたのであれば見直す必要がある。変数変換という操作の持つ問題点を認識することは、変数間の決定論的な関係を分析に際して明確にすることの重要性や誤差構造の重要性を浮かび上がらせ、生態学におけるデータ解析の質の大幅な向上に役立つ。_
著者
柴山 弓季 植田 好人 角野 康郎
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.176, 2004 (Released:2004-07-30)

自殖性絶滅危惧水生植物ヒメシロアサザの地理的変異柴山弓季(東京大・農学生命科学研究科)・植田好人(神戸市立西高校)・角野康郎(神戸大・理) 日本産アサザ属には他殖性を示す異型花柱植物アサザとガガブタのほかに、ヒメシロアサザNymphoides coreana (Lev.)Haraが存在し、3種とも絶滅危惧植物に指定されている。最近の繁殖生態学的研究の結果、ヒメシロアサザは他の2種と異なり、自動自家受粉による高い自殖性を維持していることが明らかになった(植田・角野,未発表)。ヒメシロアサザは、栃木県から西表島にわたって約10数個体群程度が局所的に残存しているに過ぎない。そこで本研究では、自殖性を示す本種の各個体群にみられる遺伝的分化を調査した。 各個体群から採集した種子を材料に発芽特性、種子形態(表面突起の有無)、種子サイズ、重量、花冠サイズおよび生活史(多年生か一年生か)を比較観察した。 その結果、上記の形質において顕著な地理的およびハビタット間(ため池か水田)分化が認められることが明らかになった。さらに、酵素多型分析により多型が認められたPGM, MDH, TPI, ADK, SkDHを組み合わせたmultilocus genotype(MLG)を決定したところ、各個体群に特有なMLGが存在していることが分かりそれぞれの個体群の遺伝的分化も裏付けられた。共有対立遺伝子距離に基づいた樹形図から、岡山県の個体群でさらなる遺伝的分化が確認された。このような分化は、自殖という繁殖様式によってお互いの個体群が遺伝的に隔離される中で生じてきたものと推測される。 今回の結果は、遺伝的多様性保全の観点から残存するすべての個体群の保全に努めることの必要性を示している。今後は、ヒメシロアサザ個体群の存続可能性を検討するためにF1, F2を作出して、近交弱勢や他殖弱勢の存在などを確認する予定である。
著者
松浦 健二
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.288, 2004 (Released:2004-07-30)

擬態は幅広い分類群に見られる戦術であり、「だます側」と「見破る側」の軍拡競争の好例として、進化生態学の分野では盛んに研究されてきた。高等動植物による巧みな擬態の例は無数に知られているが、菌類による擬態をご存知だろうか。ここで、世界初の「シロアリの卵に擬態するカビ」について発表する。シロアリのワーカーは、女王の産んだ卵を運んで山積みにし、世話をする習性がある。このようにしてできる卵塊の中に、シロアリの卵とは異なる褐色の球体(ターマイトボール)が見られる。この球体のリボソームRNA遺伝子を分析した結果、Athelia属の新種の糸状菌がつくる菌核であることが判明した。菌核とは菌糸が柔組織状に固く結合したもので、このかたちで休眠状態を保つことができる。卵塊中に菌核が存在する現象は、ヤマトシロアリ属のシロアリにきわめて普遍的にみられる。日本のReticulitermes speratusと同様に、米国東部に広く分布するR. flavipesおよび米国東南部に生息するR. virginicusも、卵塊中にAthelia属菌の菌核を保有することが判明した。シロアリは卵の形状とサイズ、および卵認識物質によって卵を認識する。この菌核菌はシロアリの卵の短径と同じサイズの菌核をつくり、さらに化学擬態することによって、シロアリに運搬、保護させている。シロアリは抗菌活性のある糞や唾液を巣の内壁に塗って、様々な微生物の侵入から巣を守っている。卵に擬態することによって巣内に入り込んだ菌核菌は、一部が巣内で繁殖し、新たに形成された菌核はさらに卵塊中に運ばれる。卵塊中の卵よりも菌核の数の方が多いこともしばしばある。シロアリのコロニーが他の場所に移動する際や、分裂増殖する際には、菌核菌もそれに乗じて移動分散することができる。日本および米国におけるシロアリと卵擬態菌核菌の相互作用について議論する。
著者
伊川 耕太 中村 幸人
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.403, 2004 (Released:2004-07-30)

伊豆大島の気候的極相林はオオシマカンスゲ-スダジイ群集となるが、噴火の影響を受けている現存植生とは異なる遷移段階の植生がみられる。本研究では植物社会学的方法(Braun-Blanquet 1964)を用いて植生調査を行い(1)伊豆大島に存在する植生単位を抽出する。(2)一次遷移、二次遷移の系列ごとに植生単位を整理し、両遷移系列を明らかにする。(3)両遷移系列の関係について明らかすることを目的とした。一次遷移には、ハチジョウイタドリ_-_シマタヌキラン群集→ニオイウツギ_-_オオバヤシャブシ群集→オオバエゴノキ_-_オオシマザクラ群集→オオシマカンスゲ_-_スダジイ群集という遷移系列がしられている。二次遷移では、その成立要因として人為的影響があげられた。また、火山による攪乱が比較的弱い立地では、火山による二次遷移が見られた。それらは、火山灰の影響をうけ、林床にダメージを受けているが、種や個体サイズの違いによって生存に違いが見られた。また、低木以上の種も、火山灰や高熱により被害を受けるが、胴吹きなどによって再生する個体が見られる。その結果、火山の影響を受けた二次遷移の系列が成立し、植生単位として、ハチジョウイボタ_-_オオバエゴノキ群落、ツルマサキ_-_オオシマザクラ群落、オオバエゴノキ_-_スダジイ群落が判定された。これらの群落は、オオシマザクラ_-_オオバエゴノキ群集との共通種が出現しているものの、その標徴種を欠いていた。この群落はニオイウツギ-オオバヤシャブシ群集に対応し、オオバエゴノキ_-_オオシマザクラ群集へ遷移していくと考えられる。オオバエゴノキ-スダジイ群落は高い優占度でスダジイが混交するものの、オオシマカンスゲ_-_スダジイ群集の種は出現していない。この群落はオオシマザクラ-オオバエゴノキ群集に対応し、オオシマカンスゲ-スダジイ群集へ遷移していく。
著者
石井 弓美子 嶋田 正和
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.350, 2004 (Released:2004-07-30)

2種のマメゾウムシ(アズキゾウムシ、ヨツモンマメゾウムシ)と、その共通の捕食者である寄生蜂1種(ゾウムシコガネコバチ)を用いた3種の累代実験系において、3種の共存が長く持続した繰り返しでは、2種マメゾウムシの個体数が4週間周期で交互に増加するような「優占種交替の振動」がみられた。このような振動は、寄生蜂が2種のマメゾウムシに対して正の頻度依存の捕食を行う場合などに見られると考えられる。そこで、ゾウムシコガネコバチの寄主に対する産卵選好性が、羽化後の産卵経験によってどのような影響を受けるかを調べた。羽化後、アズキゾウムシとヨツモンマメゾウムシに一定期間産卵させた寄生蜂は、それぞれ産卵を経験した寄主に対して産卵選好性を高めるようになり、産卵による強い羽化後学習の効果が検出された。このことから、ゾウムシコガネコバチは、産卵による寄主学習により個体数の多い寄主へ産卵選好性をシフトし、正の頻度依存捕食を行うと考えられる。 さらに、累代実験系において実際に頻度依存の捕食が行われているかを確かめるために、「優占種交替の振動」が観察される累代個体群から1週間ごとに寄生蜂を取り出し、その選好性の経時的な変化を調べた。その結果、寄主の個体数が振動している累代個体群では、寄生蜂の寄主選好性も振動しており、2種マメゾウムシの存在比と、寄生蜂の選好性には有意な相関があることが分かった。 これらの結果から、寄生蜂とマメゾウムシの3者系において、寄生蜂の正の頻度依存捕食が「優占種交替の振動」を生み出し、3者系の共存を促進している可能性がある。このような、個体の学習による可塑的な行動の変化が、個体群の動態や、その結果として群集構造に与える影響などについて考察する。
著者
野村 康弘 倉本 宣
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.528, 2004 (Released:2004-07-30)

カワラバッタEusphingonotus japonicus (Saussure)は、砂礫質河原という植生がまばらな河原に特異的に生息する昆虫である。近年各地で減少が著しく、東京都では絶滅の危機が増大している種と選定されており、一刻も早い対策が求められている。本種は主に被植度の少ない砂礫質河原に好んで生息することが先行研究により報告されているが、それ以外の保全に関する情報は今のところ報告されていない。そこで、多摩川における本種の分布域、個体群の規模、産卵地選好性を明らかにし、保全に関する基礎的知見を得ることを目的とし、研究を行った。 多摩川の砂礫質河原を踏査した分布調査により、河口から47-57kmの範囲で個体群を確認した。また、標識再捕獲法による個体数推定では一つの個体群の平均が371±174(95%信頼区間)個体で、調査を行った場所の全体(6箇所)としては2,296±978個体と推定された。砂礫質河原面積と個体数で回帰分析を行ったところ、正の相関関係(r2=0.85)が認められた。本種の個体数には砂礫質河原面積が影響していることが示唆された。産卵地選好性の研究では飼育箱に本種を20匹放し、6つの異なる環境を設定して行った。環境条件は砂礫構成を1.透かし礫層、2.礫間にマトリックスがあるパターン、3.表層細粒土層があるパターンとし、下層の粒度分布を粗砂、細砂の2つを設定した。卵鞘は合計で23個産卵され、全体で最も多く産卵された環境は、透かし礫層で粗砂の環境であり、全体の43.5%を占めた。さらに、砂礫構成だけでみてみると透かし礫層が最も多く69.6%を占め、下層粒度だけでは粗砂のほうが多く69.6%を占めた。このことから、地面と礫または礫と礫の間に多くの空間が構成され、植生がほとんどない下層の礫径が大きい環境を好むことが推察された。