著者
梁瀬 徹
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集 第63回日本衛生動物学会大会
巻号頁・発行日
pp.32, 2011 (Released:2014-12-26)

Culicoides属ヌカカ(以下、ヌカカ)によって媒介されるアカバネウイルスやアイノウイルス、チュウザンウイルスは反芻動物に感染し、流産、早産、死産、先天異常(いわゆる異常産)を起こす。我が国では、これらのアルボウイルスによる牛の異常産の流行がしばしば起こり、畜産業に多大な損耗を与えている。また、同様にヌカカによって媒介されるブルータングウイルスやシカ流行性出血熱ウイルス、牛流行熱ウイルスは世界中に広く分布し、反芻動物に急性の疾病を起こす。低緯度地域では、年間を通じて感染サイクルが維持されるため、これらのアルボウイルスは常在化していると思われる。しかし、高緯度地域ではヌカカの成虫の活動は冬期にはみられないため、ウイルスは越冬せず常に低緯度地域から保毒ヌカカが侵入することにより、アルボウイルス感染症の流行が起こると考えられている。国内で毎年行われている、未越夏の子牛を用いたアルボウイルスの侵潤状況の調査においても、各種アルボウイルスに対する抗体陽転は夏期に西日本から始まり、東に拡大することが明らかになっている。また、過去50年にわたり国内で分離されたアカバネウイルスの遺伝子解析の結果、流行年によって遺伝子型が異なることが示され、流行ごとに新たに国外からウイルスが侵入していると考えられる。下層ジェット気流が大陸から日本に流れる梅雨期に、東シナ海上でアルボウイルスの主要な媒介種のひとつと考えられるウシヌカカが捕集されていることは、保毒ヌカカの国外からの侵入の可能性を示唆している。現在、我々の研究グループでは、九州西側に設置した吸引型大型トラップによりヌカカの捕集を行い、気象解析データとの比較から、国外からの飛来の可能性の有無について調査を行っている。また、国内外で捕集されたヌカカのミトコンドリア遺伝子を解析して、飛来源の推定に利用することを試みており、現在までに得られたこれらの知見を紹介する。

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