著者
伊藤 靖忠
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集 第63回日本衛生動物学会大会
巻号頁・発行日
pp.71, 2011 (Released:2014-12-26)

ワルファリンを代表とする第一世代の抗凝血性殺鼠剤は、単回摂取ではほとんど致死効力を発揮しないが、複数回摂取では顕著な累積効果が認められる。一方、ジフェチアロールを代表とする第二世代の抗凝血性殺鼠剤は、ネズミに対する毒性が極めて高く、単回摂取でも致死効力を発揮するが、これら薬剤の累積効果についての報告はほとんど見られない。マウスに対するジフェチアロールの累積効果については、第59回衛動学会大会時(2007)の殺虫剤研究班集会で報告した。試験は、所定濃度の投与液をマウスの体重10g当たり0.1mlの割合で金属製ゾンデを用いて直接胃内に投与する方法で行った。その結果、従来より認められていた単回摂取での致死効力に加え、単回摂取で十分な効力が得られない低薬量群において、0.5mg/kgの1回投与で死亡率が0%(0/6)、0.1mg/kgの5回投与で死亡率が33.3%(2/6)という累積効果が認められた。その後、ラットおよびクマネズミに対して同様の方法で試験を行った結果、単回摂取での致死効力に加え、単回摂取で十分な効力が得られない低薬量群において、ラットでは0.5mg/kgの1回投与で66.7%(4/6)、0.1mg/kgの5回投与で100%(6/6)、クマネズミでは0.5mg/kgの1回投与で50%(2/4)、0.1mg/kgの5回投与で100%(4/4)という死亡率が得られ、いずれのネズミにおいても、0.1mg/kgの5回投与、合計で0.5mg/kgという低薬量で累積効果が認められた。これらの結果の詳細について報告する。
著者
梁瀬 徹
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集 第63回日本衛生動物学会大会
巻号頁・発行日
pp.32, 2011 (Released:2014-12-26)

Culicoides属ヌカカ(以下、ヌカカ)によって媒介されるアカバネウイルスやアイノウイルス、チュウザンウイルスは反芻動物に感染し、流産、早産、死産、先天異常(いわゆる異常産)を起こす。我が国では、これらのアルボウイルスによる牛の異常産の流行がしばしば起こり、畜産業に多大な損耗を与えている。また、同様にヌカカによって媒介されるブルータングウイルスやシカ流行性出血熱ウイルス、牛流行熱ウイルスは世界中に広く分布し、反芻動物に急性の疾病を起こす。低緯度地域では、年間を通じて感染サイクルが維持されるため、これらのアルボウイルスは常在化していると思われる。しかし、高緯度地域ではヌカカの成虫の活動は冬期にはみられないため、ウイルスは越冬せず常に低緯度地域から保毒ヌカカが侵入することにより、アルボウイルス感染症の流行が起こると考えられている。国内で毎年行われている、未越夏の子牛を用いたアルボウイルスの侵潤状況の調査においても、各種アルボウイルスに対する抗体陽転は夏期に西日本から始まり、東に拡大することが明らかになっている。また、過去50年にわたり国内で分離されたアカバネウイルスの遺伝子解析の結果、流行年によって遺伝子型が異なることが示され、流行ごとに新たに国外からウイルスが侵入していると考えられる。下層ジェット気流が大陸から日本に流れる梅雨期に、東シナ海上でアルボウイルスの主要な媒介種のひとつと考えられるウシヌカカが捕集されていることは、保毒ヌカカの国外からの侵入の可能性を示唆している。現在、我々の研究グループでは、九州西側に設置した吸引型大型トラップによりヌカカの捕集を行い、気象解析データとの比較から、国外からの飛来の可能性の有無について調査を行っている。また、国内外で捕集されたヌカカのミトコンドリア遺伝子を解析して、飛来源の推定に利用することを試みており、現在までに得られたこれらの知見を紹介する。
著者
都野 展子 石田 幸恵 矢吹 彬憲
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集 第63回日本衛生動物学会大会
巻号頁・発行日
pp.47, 2011 (Released:2014-12-26)

サハラ以南アフリカで主要なマラリア媒介蚊である2種Anopheles gambiae とAn. arabiensisの幼虫繁殖場所の生産性を決める環境要因は何かについて近年研究が進められている.従来よりこの2種の幼虫繁殖場所の特徴は、短命な浅い水溜りであることが認識され報告されてきていたが、Tunoら(2006)は緑藻類(特にRhopalosolensp.)が幼虫の餌として重要であることを示した.本研究は、Anopheles gambiaeとAn.arabiensisの2種の幼虫の生息する水体に発生する他の生物群集を評価しながら、その水体の特徴、とりわけ藻類とその水体の物理化学的特徴を評価し、生物的・無生物的な環境変量と幼虫個体数の関係を解明することを目的として、本研究を行った.方法:ケニア西部の水溜りから、水を採集し、動物群集・生産者である藻類群集・水体サイズ・陽イオン成分・陰イオン成分・酸素同位体比δ18Oなど物理化学的な特徴を調査した.結果:調査に費やした2008年と2009年で水溜りの性質はかなり異なっていた.2008年は水溜りが出来るのを見ながら採水を進め、2009年は乾いていく水溜りからの採水となった.δ18O値の性質や実用性を検証した結果,δ18O値は降雨以外に、水体の個性(形状・土壌の質・水の供給源)に影響されているとわかった.ガンビエ幼虫に関係するさまざまな環境要因は水の古さによって大きく異なった.2008年の新しく出来た水溜りのみ、卵に乾燥耐性がある種が見られ、2009年の長期間存在していた水溜りでは、甲虫目や半翅目など比較的成長に時間がかかる種が多く存在していた.考察:ガンビエ幼虫密度と環境要因の結果では、生産者との関係として、水の古さにより幼虫密度と重要な藻類は異なっていたが、Rhopalosolen sp.は両年で重要性が証明された.ガンビエ密度は新しい水体では生産性の高い水体にニッチの近い生物種と同時に発生すると考えられた.古い長期間存在する水体では捕食圧が重要であったことが示唆された.
著者
大庭 伸也 松尾 公則 高木 正洋
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集 第63回日本衛生動物学会大会
巻号頁・発行日
pp.49, 2011 (Released:2014-12-26)

休耕田を利用したビオトープは,水田耕作を辞めたために生息地が失われた水生昆虫や魚類,両生類など様々な水辺の生き物に新たな生息地を提供し,生き物観察会や体験学習など環境教育の場としても注目されている.しかし,ビオトープの造成は水田に類似した環境を創出するため,元来,水田を繁殖地としていた病原媒介蚊類に新たな繁殖地を提供することも意味するが,ビオトープから発生する蚊に関する研究はこれまでに全くなされていない.本講演では,ビオトープとその近隣の水田地帯の蚊類とその他の水生昆虫を中心に比較調査を行い,病原媒介蚊の繁殖地としてのビオトープについて考察する.長崎市相川町の休耕田ビオトープ(以下,ビオトープ)と比較対象として,ビオトープから最も近隣の水田地帯を調査地として選定とした.2009年4月から10月にかけて原則的に月に1度の頻度で調査を実施し,採集されたカ科の幼虫(ボウフラ)とその他の水生生物を可能な限り同定した. 水田地帯にみられるボウフラはビオトープにおいて全種が確認された.これは病原媒介蚊が水田と同じようにビオトープを繁殖地として利用していることを示唆している.しかし,ボウフラは水田よりも明らかにビオトープの方で少なく,低密度で推移することが分かった.その理由として考えられるのがボウフラの天敵水生昆虫(以下,天敵)の密度の違いである.天敵の密度は水田よりもビオトープの方で高く,安定していた.また,天敵の代替餌(カ科以外の双翅目とカゲロウ目の幼虫)の密度もビオトープの方で常に高いことが分かった.ビオトープでは豊富な代替餌が存在するため,ボウフラが少ない時期でもそれらが天敵の餌となり,天敵の密度低下が起こらないと考えられる.以上から,ビオトープは病原媒介蚊の発生源となりうるが,豊富で多様な天敵の存在により,水田よりもボウフラの密度が低く,突発的な密度上昇が起こりにくいことが示唆された.
著者
桐木 雅史 千種 雄一 一杉 正仁 黒須 明 徳留 省悟
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集 第63回日本衛生動物学会大会
巻号頁・発行日
pp.67, 2011 (Released:2014-12-26)

法医解剖において遺体から採取された生物を同定し解析することで有用な情報が得られる場合があることが知られている。本学では、主として栃木県で発見された遺体を対象として法医解剖を実施している。2010年に実施された法医解剖228件のうち35件(15.4%)において、遺体から検出された昆虫が熱帯病寄生虫病室に持ち込まれた。概要をまとめ、考察を加えて報告する。 月別では1年を通して1~10件/月あり、8月をピークとして6~9月に多かった。虫種はハエ類が多く、35件中33件で幼虫が見られ、他の2件でも卵または蛹が確認された。ハエの種類としてはクロバエ科(Calliphoridae)が29件、ニクバエ科(Sarcophagidae)が14件で確認された。また、1月に発見された遺体からはチーズバエ科幼虫が検出された。 ハエ類以外に、甲虫類が5件で検出されている。カツオブシムシ類、シデムシ類がそれぞれ2件で見つかり、1件でゴミムシ類、ハサミムシ類、ヒラタムシ上科が見られた。 ヒラタムシ上科の幼虫は橈骨の骨髄腔内から検出された。この幼虫は形態からヒラタムシ上科の球角群に属することがわかった。このグループには動物死体の骨髄腔内に侵入することが報告されているケシキスイ科(Nitidulidae)が含まれる。演者らは寒冷期に発見された白骨死体の骨髄腔からチーズバエ科の幼虫を検出し、昨年の本学会で発表している。通常法医解剖において、生物の検索は体表に留まるが、本事例から骨の内部も法医昆虫学的な検索の対象となり得ることがあらためて示唆された。