著者
安井 廣迪
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.177-202, 2007-03-20 (Released:2008-09-12)
被引用文献数
8 5

現在の日本の漢方医学の形は, 過去における諸学派の理論や方法の影響を受けて形成された。この医学は, 当初は中国医学の模倣であったが, 徐々に日本独特の形を獲得, 16世紀に至り, 曲直瀬道三らの努力によって当時の明の医学システムを全面的に導入することに成功し, 一大学派を形成した。17世紀後半に入ると, 中国の『傷寒論』研究ブームの影響が日本に及び, この古典に基づいた医学体系を構築する学派が出現した。とりわけ吉益東洞は徹底して『傷寒論』処方の研究を行い, 処方を特定の症候に対応させて運用する方証相対システムを考案した。そのあと後世派と古方派の医術を臨床的に折衷する学派が出現した。折衷の形はさまざまであり, この学派に属する多くの医師によって, 個性溢れる治療が行われた。1868年の明治維新後, 漢方医学は正統の地位を外れたが間もなく復興し始め, 少数ながら精鋭の漢方専門医によって『漢方診療の実際』 (1941) が出版されて, 現在の漢方医学の基礎を作った。その後の漢方医学は, 現代医学的な研究を多く取り入れ, 学派も以前とは異なった形で存続している。

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