著者
石嶋 久男
出版者
[栃木県水産試験場]
巻号頁・発行日
no.41, pp.3-12, 1998 (Released:2013-10-08)

1. 中禅寺湖漁協の増殖事業により採捕されたヒメマス,ホンマスの尾数の周期性判定のためコレログラム解析を行った。両種とも周期性は見られなかったが,ホンマスは減少していることがわかった。2. ヒメマスとホンマスの関係を明らかにするために,採捕年次毎及び対応する回帰線はどの次数がもっとも当てはまりがいいか検討した。ヒメマスとホンマスの関係は,1年後のホンマスの採捕尾数(同一年級群)との間が一番高い負の相関を示した。3. ヒメマスとホンマスの関係を表すモデルとしてロトカ・ボルテラの競争系を用いて,両種の関係を同一年級群同士で考察した。平衡点(交点)付近は一方からは遠ざかり,他方からは近づく鞍部点となり一方の種が絶滅することを示したが,1年前のホンマスの資源量によっては共存の可能性があることが示唆された。4. 漁獲は,アイソクラインの各々の直線を下方へ平行移動させる働きをしている。今回の推定では,両種が強い漁獲圧を受けて著しく減少した最後の段階での資源量を用いた。それ故に,解禁当初の両種の資源量はもっと多く,それが漁獲減耗,その他の減耗(自然死亡,捕食など)により平衡点(交点)が低い位置に平行移動したと考えられた。5. 中禅寺湖に生息するブラウントラウトなどの捕食魚の役割は,ヒメマス,ホンマスの関係を調整する役割をしていることが予想され,漁獲の強弱,各種の捕食魚の資源量によって平衡点の位置(K1、K2、交点)に向けて,常にダイナミックに変動していると考えられた。6. 1975~81にかけて採捕されたヒメマス,ホンマスの体長から数量的にヒメマスの回帰の主群は3年目,ホンマスは,4年目と考えて良いものと思われた。7. 同一年に放流されたヒメマス,ホンマスが種内,種間とでどのような関係にあったのか推察するため3,4年後の採捕尾数と両種の放流尾数及び翌年の放流尾数を説明変数として相関を求めた。ヒメマスでは相関がなかったが,ホンマスでは同じ年および翌年に放流されるヒメマス放流尾数の方が強く作用することが至竣された。8. 採捕されたホンマスの尾数(z軸)及び同じ年級のヒメマス放流尾数(x軸)並びに翌年のヒメマス放流尾数(y軸)をベクトルで表し,面プロットするとヒメマス放流尾数100万尾付近で大きくホンマスの採捕尾数が落ち込むことが示された。ホンマス資源回復の方策として1)放流魚の確保2)再生産力の活用3)稚魚の成育の場としての河川の保全が考えられた。

言及状況

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