- 著者
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大村 智
- 出版者
- 日本細菌学会
- 雑誌
- 日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
- 巻号頁・発行日
- vol.54, no.4, pp.795-813, 1999-11-30
- 参考文献数
- 41
- 被引用文献数
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5
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サルファ剤やペニシリンの導入以来,化学療法は絶えることなく耐性菌問題を引きずって,今日に至っている。最近では,薬剤耐性結核菌やバンコマイシン耐性腸球菌などの出現が社会問題となりつつある。また,過去20年間で新たな感染症は30種類以上とも報告されているが,治療法もいまだに確立されていないものも多く,化学療法剤の前途は厳しいと言わざるを得ない。一方,最近では個々の病原性遺伝子の役割がより詳細に知られるようになり,付着,侵入などの病原性に関わる遺伝子も薬剤の標的として考えられる。従って,従来の化学療法剤のように抗菌,静菌作用を有するものに加え,今後はbacterial adaptation/survivalまたは病原性をコントロールできる薬剤や宿主の免疫力を高める薬剤等を含め“抗感染症薬(antiinfective drugs)”と表現される,より拡大された概念をもった薬剤の開発が期待される。本稿では“抗感染症薬”という新しい概念の下で研究される(1)新規な標的を有する化学療法剤,(2)細菌毒素の毒性軽減物質,(3)毒素分泌機構に作用する薬剤,(4)病原細菌の感染機序から発想された標的,(5)宿主の感染防御機構に学ぶ抗感染症薬の開発を取り上げ,その可能性を論じる。