著者
大塚 雅裕
出版者
日本熱帯生態学会
雑誌
Tropics (ISSN:0917415X)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.309-322, 2000-05-20
参考文献数
19

熱帯地域では持続的な森林資源管理のために,多年生作物を用いた農民の土地利用の安定化が緊要な政策課題となっている。しかしながら,農民の行動様式はその地域の天然資源状態及び社会経済環境に左右される。本論文では,インドネシア・西スマトラ州の調査地での事例をもとに,森林周辺において商業主義化が進む地域住民の農業方式の特徴と土地利用集約化のための課題を考察する。<BR>ミナンカパウ農民は自活のために平坦地で長らく水田耕作を営んできたが,近年山間地で収入増加のための畑地耕作を拡大してきた。畑地には植民地時代以降導入されてきたゴム,コーヒー,シナモンなどの換金作物が広く栽培されている。しかし,農民の畑地耕作は,土壌劣化,苗木入手困難,有害動物など多くの技術的制約に妨げられており,一部農民は自らのアイデアで克服してはいるもののその効果はまだ限定的である。さらにより深刻なのは社会経済的制約であり,小農は十分な解決策を見い出せていない。土地問墾,作付け,作物保護及び収穫のために多量の資本と労働力が必要となるが,農民は米の自給自足のために狭小化・分散化する水間耕作にますます集中せざるを得なくなり,遠方の森林内にある畑地での労働が一層困難となっている。さらに市場価格の不安定もあり,生産手段のない小農は頻繁に換金作物栽培を中断し,畑地は放置されて休耕地となる。休耕地の生産資源は劣化し,十分な資本・労働力なしにはその後の再耕作も困難である。他方農民は栽培・市場取引失敗のリスクを恐れるあまり,果樹その他の樹木作物の本格導入には欝跨しがちで,依然として従来の不安定な森林開拓・換金作物栽培に依存したままである。<BR>こうした商業主義的な農業方式を地域の生態的・経済的な状況に適合させるため,他のスマトラ地域での様々な農業システムの事例をも検討しながら,適切な土地利用集約化の方策が模索されなければらない。

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