著者
五十嵐 雅哉
出版者
The Japan Geriatrics Society
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.8-15, 2004-01-25

一般的にパターナリズムは「ある個人の利益になるという理由で, その個人の自律性を制限する干渉を行うこと」と定義されることが多い. この定義を医療にあてはめるといくつかの矛盾が生じることがある. このことは, 医療におけるパターナリズムの定義が再考される必要があることを示す.<br>医療におけるパターナリズムがすべて正当化されるべきであるとは主張しない. 正当化されることがあるとすればその条件は何か. その条件を ethical な観点から導き出すことが本稿の目的である. そのために, まず以下を前提として議論を進めることにする. それは, (1)たいていの場合, 自律性は尊重されるべきである, (2)インフォームドコンセントに基づく医療はいいことである, (3)医療行為は患者の利益のためになされるものである, (4)医師の説明は適切に行われている, (5)患者が同意した場合, それは医師の説明を理解し, 自律性に基づいて自発的になされている. 以上の五点である.<br>これらをもとにインフォームドコンセントを整理し, パターナリズムによる医療をインフォームドコンセントに基づかない医療と定義した. この観点から, 医師の裁量権や拒否権から legal な正当化条件を整理し, また, J.S. ミルの『自由論』の議論をもとに,「危害原理」に基づく正当化論を整理した. さらに, ここから論を進めて「自律性の確認目的のための干渉」理論とでもいうべき正当化論を導き出した. これは, 生命の危機が迫っているためにインフォームドコンセントが得られないときにかぎり, パターナリズムが正当化されると考えるものである. この場合の医療は, 患者にたいして医療を行いたいが説明できる状態ではないとき, 説明できる状態にまでまず応急的に医療を行うと考える. つまり「正当化される干渉とは自律性, すなわち自己決定を確認するための干渉である」と考えるのである. この自律性を確認するという干渉はインフォームドコンセントの過程に含まれることであるから議論に矛盾しない.

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