著者
岩田 健太郎
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.447-450, 2011 (Released:2012-02-09)
参考文献数
11
被引用文献数
1 or 0

高齢者における感染症診断の原則は,通常の感染症診断の原則となんら変わることはない.それは,感染臓器の特定,原因微生物の同定,そして患者の重症度の見積もりの3点である.とはいえ,高齢者特有の診断にまつわる問題は存在する.尿路感染症や肺炎などコモンな感染症の症状は若年者に比べるとはっきりしない.発熱を伴わない感染症も少なくない.不要な検査で感染症の「レッテル」を貼ってしまうことは厳に慎みたい.患者のアウトカムに関係しない微生物探しは,患者やその周辺の利益にはつながらない.
著者
三浦 宏子 苅安 誠
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.627-633, 2007 (Released:2007-11-30)
参考文献数
19
被引用文献数
1 or 0

目的:虚弱高齢者の服薬状況についての報告は少なく,嚥下機能の低下と服薬との直接な関連性については十分に明らかになっていない.そこで,本研究では,虚弱高齢者に対して服薬模擬調査を行い,大きさの異なる各錠剤の服用時において,嚥下機能の低下が服薬行動に与える影響を調べた.併せて,錠剤サイズと取り扱い作業時間との関連性についても調べた.方法:被験者は,虚弱高齢者73名である.この被験者に対して,ADL20を用いた日常生活機能評価,反復唾液嚥下テスト(RSST)を用いた嚥下機能評価,ならびに服薬模擬場面を設定した実地調査を実施した.実地調査においては,直径が異なる5種のサンプル錠(6mm,7mm,8mm,9mm,10mm)を用いて,錠剤を口に含む手前までの動作を被験者にしてもらい,その際の飲み込みやすさと取り扱い性について主観的評価を行うとともに,取り扱い作業時間を計測した.結果:嚥下機能低下群と正常群において,各錠剤サイズ3錠のサンプル錠を用いて,服薬動作の比較を行ったところ,10mm以外の錠剤サイズにおいて,嚥下機能と服薬分割回数の間に有意な関連性が認められ(p<0.05),低下群では錠剤を複数回に分けて服用する傾向がみられた.また,すべての錠剤サイズにおいて,ADLと模擬動作における錠剤の取り扱いに要した時間との間に有意な関連性が認められた(p<0.01).次に,飲み込みやすさと取り扱い性の両者を考慮して,最も処方薬として至適であると感じた錠剤サイズとして7mmを選択した者が30.1%,8mmを選択した者が28.8%であった.また,最も好ましくないと感じた錠剤サイズとして,10mmを選択した者が61.6%,6mmを選択した者が28.8%であった.結論:虚弱高齢者の嚥下機能とADLの低下は,服薬行動と密接な関連性を示した.また,虚弱高齢者の服薬に適した錠剤サイズは7∼8mmであることが示唆された.
著者
留畑 寿美江
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.767-774, 2012 (Released:2013-07-24)
参考文献数
20

目的:本研究は,尿排泄機能に与える加齢の影響を調べるために,膀胱容量,排尿量,平均尿流率ならびに残尿量を用いて若年女性と高齢女性の自然な排尿状態下における蓄尿および排尿機能を比較した.方法:排尿機能障害のない高齢女性6名(平均年齢64歳)及び若年女性12名(平均年齢22歳)を対象とした.飲水(500~700 ml)後にみられる尿意出現時の膀胱容量,排尿量,尿排出時間,平均尿流率および残尿量を測定した.各項目について,初発尿意時と最大尿意時に分けて実験を2回実施した.膀胱容量を超音波測定機器を用いて非侵襲的に測定した.平均尿流率は排尿量/尿排出時間の式から求めた.残尿量は膀胱容量から排尿量を引いた値として算出した.結果:最大尿意時における若年女性群の膀胱容量は576 ml,高齢女性群の膀胱容量は505 mlであり,両群間で有意な差はなかった.若年女性群の排尿量556 mlは高齢女性群418 mlに対し有意に多く,逆に高齢女性群の残尿量88 mlは若年女性群34 mlよりも有意に多かった.最大尿意時において,若年女性群と高齢女性群は同等の平均尿流率(16 ml/s)を示したにも関わらず,高齢女性群において排尿量は少なく残尿量が多かった.若年女性群では膀胱容量に比例して尿排出時間は延長したが,高齢女性群では膀胱容量に関わらず尿排出時間が変化しなかった.高齢女性群では尿排出時間は延長されないため,膀胱に貯留した尿を排出しきれなかった.結論:高齢女性において蓄尿機能ならびに尿排出速度は若年女性と同様に維持されているが,膀胱収縮は膀胱容量に比例して持続しないため膀胱に貯留した尿を排出しきれず残尿が多いと考えられる.
著者
居川 幸正 松原 泉
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.536-541, 2013 (Released:2013-09-19)
参考文献数
15

目的:長期入院胃瘻造設後患者を対象に生存時間分析を行うことで,胃瘻造設時年齢が生命予後に与える影響を明らかにする.方法:対象者は2005年12月から2012年3月までの間に当院に入院していた胃瘻造設後の患者478名のうち,最終的な転帰を調査できた408名.胃瘻造設後の患者は日常の看護,介護の一環として口腔ケアを施行された.胃瘻造設時の年齢によって対象を4群に分割し,60~69歳を60歳代群,70~79歳を70歳代群,80~89歳を80歳代群,90~99歳を90歳代群とした.Kaplan-Meier法を用いて生存曲線を描出し,log-rank検定とCoxの比例ハザードモデルで統計学的解析を行った.結果:全対象者の1年生存率は75.4%,5年生存率は23.2%,生存中央値は32.2カ月であった.女性の生存率が有意に男性よりも優れていた(p=0.0014).80歳代群と90歳代群は60歳代群と比較して有意に生存率が低かった(p<0.008).しかし,70歳代群,80歳代群および90歳代群の3群間の生存率はほぼ同様の傾向を示し,log-rank検定で有意差は検出されなかった.女性に対する男性の年齢調整死亡ハザード比は1.748(95%信頼区間,1.364~2.242),60歳代での胃瘻造設の死亡ハザードを1としたとき,80歳代および90歳代での造設による性別調整ハザード比は,順に2.173(95%信頼区間,1.341~3.521),3.071(95%信頼区間,1.627~5.797)であった.結論:今回の研究結果は,既報告に比べて全体的に生存率が高く,日常的な口腔ケアが胃瘻造設後の生命予後を向上させ得ることを示した.80歳以上での胃瘻造設は60歳代での造設に比べて有意に死亡リスクが高く,80歳以上の高齢になるほど,胃瘻造設の適応に慎重さが求められることを示唆している.
著者
新井 康通 広瀬 信義 川村 昌嗣 本間 聡起 長谷川 浩 石田 浩之 小薗 康範 清水 健一郎 中村 芳郎 阪本 琢也 多田 紀夫 本間 昭
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.202-208, 1997-03-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
22
被引用文献数
3 or 0

東京都在住の百寿者45名 (男15例, 女30例, 平均年齢101.1±1.4歳, mean±SD, 以下同じ) の血清脂質値, アポ蛋白A1 (以下アポA1と略す), アポ蛋白B (以下アポBと略す), リポ蛋白分画, 低比重リポ蛋白 (以下LDLと略す) 分画の被酸化能を測定し, 健常な若年対照群と比較検討した.百寿者では対照群に比べ, 総コレステロール (以下TCと略す), 高比重リポ蛋白コレステロール (以下HDL-Cと略す), アポA1, アポBが有意に低値を示した. アポBが60mg/dl以下の低アポB血症の頻度は対照群の2.3%に対し, 百寿者では23%と有意に高かった. 各リポ蛋白分画中のコレステロール濃度は超低比重リポ蛋白コレステロール (以下VLDL-Cと略す), LDL-C, HDL-C, のいずれにおいても百寿者で有意に低かった. HDLの亜分画を比べると百寿者で低下していたのはHDL3-Cであり, 抗動脈硬化作用を持つHDL2-Cは両群で差がなく, 百寿者の脂質分画中に占めるHDL2-Cの割合は有意に増加していた. LDLの被酸化能の指標である lag time には有意差を認めなかった (百寿者44.7分±31.8対対照群49.9±26.0分). 百寿者を日常生活動度 (以下ADLと略す) の良好な群と低下している群に分け, 脂質パラメータを比較したところ, ADLが良好な群でHDL3-Cが有意に高値を示していた. 認知機能を Clinical Dementia Rating (以下CDRと略す) によって正常から重度痴呆まで5段階に評価し, 各群の脂質パラメータを比較したところ, 中等度以上の痴呆群でHDL-Cが正常群に比べ有意に低下していた.百寿者はアポBが低く, HDL2-Cが比較的高値であり, 遺伝的に動脈硬化を促進しにくい脂質組成を示すことが明らかとなった.
著者
葛谷 雅文 長谷川 潤 榎 裕美 井澤 幸子
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.170-176, 2015-04-25 (Released:2015-05-19)
参考文献数
9

目的:要介護認定を受け,在宅療養中の高齢者のコホートを利用し,栄養摂取方法ならびに食形態をサーベイし,その背景の比較を行うと同時に,3年間の縦断調査により,生命予後,入院への関連につき検討した.方法:名古屋市在住の高齢者を対象にした前向きコホート縦断研究(The Nagoya Longitudinal Study of Frail Elderly;NLS-FE)の参加者のうち,食事摂取状況が把握できた1,872名(平均年齢:80.6±7.7(SD)歳,男性:33.8%)を解析対象とした.研究開始時の基本的ADL,要介護度,併存症(Charlson Comorbidity Index)などの患者背景ならびに栄養摂取方法ならびに食形態を調査し,さらに3年間前向きに種々のイベントに関して縦断的調査を実施した.結果:登録時に経口摂取が可能な対象者は1,786名で,食事内容は普通食1,487名(79.5%),それ以外の経口摂取(介護食)299名(全粥食,ミキサー食など)であった.経管栄養使用者は82名(4.4%),静脈栄養は4名(0.2%)であった.介護食使用者では明らかに普通食摂取者に比較し要介護度が高く,経管栄養使用者ではさらに要介護度が高く,要介護5と認定されている対象者が84.1%にも及んだ.普通食に比較し,介護食,経管栄養利用者の順にADLは低下し,認知症,脳血管障害の有病率は増加した.3年間の観察期間に1,872名中453名(24.2%)が死亡し,798名(42.6%)が少なくとも一度の入院を経験していた.肺炎が主な死因であったのは103名(5.5%)で,肺炎により入院したのは155名(8.3%)であった.Cox比例ハザードモデルでは普通食摂取に比較し,ADLを除く調整では介護食,経管栄養使用者では死亡,入院リスクが有意に高値であったが,ADLを調整因子に加えるとその有意な関係は消失した.一方肺炎による死亡ならびに入院リスクに関してはADLを調整因子として投入しても,介護食,経管栄養使用者では有意なリスク(入院は経管栄養のみ)となっていた.結論:介護食,経管栄養利用者は肺炎死亡のリスクが高いことが明らかとなり,日ごろから適切な食事介助,口腔ケアなどの予防が重要である.
著者
橋田 英俊 本田 俊雄 森本 尚孝 相原 泰
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.700-703, 2001-09-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
13
被引用文献数
3 or 0

75歳の男性が見当識障害, 構語障害, 歩行障害の増悪を来して入院した. 患者は4年前に頸椎症と診断され治療を受けていたが, 四肢の運動障害及びしびれ感は徐々に増悪していた. みかけ上の血清Cl値の上昇が端緒となり, ブロム中毒が疑われた. 10年来のブロムワレリル尿素含有鎮痛薬の内服歴及び血清ブロム濃度上昇を認めたため, ブロム中毒と診断された. 輸液により症状は軽減したが, 四肢の運動障害は残存した. 四肢の運動障害は頸椎症に加え慢性ブロム中毒による不可逆性の障害も関与している可能性が否定できない. 高齢者の精神・神経症状は, 老人性痴呆や加齢による影響と判断され積極的な診断や治療が見送られることが多い. ブロムワレリル尿素は市販の鎮痛薬等にも含まれている成分であり, 高齢者で精神・神経症状を呈した症例に対しては, ブロム中毒を念頭におく必要がある.
著者
松村 拓郎 三谷 有司 沖 侑大郎 藤本 由香里 石川 朗
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.364-368, 2014 (Released:2014-10-20)
参考文献数
26
被引用文献数
1 or 0

目的:肺炎は脳血管障害患者に好発する合併症の1つであり,その発生機序の多くが誤嚥性肺炎である.誤嚥性肺炎は口腔内細菌叢の誤嚥による侵襲と咳嗽反射や免疫能などの宿主の抵抗反応のバランスの崩壊によって発症するとされる.しかし,現在までの報告の多くが誤嚥や嚥下障害に着目したものであり,宿主抵抗に関する報告は乏しい.本研究では,嚥下障害を有する脳血管障害患者のみを対象として,誤嚥性肺炎発症における宿主抵抗の重要性について検討した.方法:脳梗塞または脳出血の診断を受け,回復期リハビリテーション施設4病院に新規入院した175名のうち,入院時点で嚥下障害を有していた76名(平均年齢74.7±8.4歳,男性29名)を対象とした.対象者を入院期間中の肺炎発症の有無により2群に分類し,2群間で入院時の特徴を後方視的に比較・検討した.結果:入院期間中に肺炎を発症したのは10名(13.2%)であり,そのすべてが65歳以上の高齢者であった.2群間の比較では性別,活動レベル,血清アルブミン,食事形態,嚥下障害重症度の項目で有意差がみとめられた(p<0.05).結論:本研究から嚥下障害を有する脳血管障害の肺炎発症要因として女性,臥床,低栄養状態,経管栄養,重度嚥下障害の存在が挙げられた.誤嚥性肺炎発症は嚥下障害と非常に密接に関係している一方で,臥床や低栄養状態などの宿主抵抗も重要な関連因子であることが示された.
著者
山本 章 山﨑 紘一
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.153-161, 2015-04-25 (Released:2015-05-19)
参考文献数
22

目的:ESBL産生大腸菌が急増している事態を踏まえ,高齢者尿路感染症の抗菌薬治療の効率を比較検討する.方法:2013年1月以降の15カ月間に尿路感染症を起こした入所患者について,内服薬として①ホスホマイシン(FOM),ミノサイクリン(MINO),スルファメトキサゾール・トリメプタム合剤(ST),およびリファンピシン(RFP)のうちから2剤(原則としてFOM/MINOあるいはRFP/ST併用),②単剤としてのレボフロキサシン(LVFX)と,注射薬として③スルバクタム配合セフォペラゾン(SBT/CPZ),④メロペネム(MEPM),の計4種の治療効果を比較検討した.治療後に一般病原細菌が検出されなかった場合に治療有効と判定した.結果:①内服薬組み合わせ群での全病原細菌に対する治療有効率は9/11=82%で,ESBL産生大腸菌は結果不明例を除く4例でいずれも消失,②LVFX群では15例中3例に治療前,また3例に治療後ESBL産生またはLVFX耐性の大腸菌が検出され,培養結果判明後,治療薬をMEPM注射に切り替えた.結果不明の1例を除く14例についての治療有効率は9/14=64%であった.③SBT/CPZ群では治療前に検出されたESBL産生大腸菌は3例中2例で消失したが,治療終了後の尿から新たにESBL産生菌2例と一部耐性菌1例が検出された.全病原細菌に対する治療有効率は9/16=56%であった.④MEPM群ではESBL産生/LVFX耐性大腸菌(16例)はいずれも消失したが,全病原細菌に対する治療有効率は19/27=70%で,治療後Klebsiella pneumoniaeが残った例が見られた.⑤全症例についての尿中好気性病原細菌培養における感受性検査の結果では,ESBL産生大腸菌群に高頻度にβ-ラクタマーゼ阻害薬配合βラクタム系薬に耐性の株(SBT/CPZ:18/32=56.3%,CVA/AMPC:9/32=28.1%)が検出された.結論:比較的軽度の尿路感染症に対するFOM/MINOの有効性が確認された.SBT/CPZは有効率が低く,培養細菌の感受性テストでも耐性株が高頻度に検出されたので,β-ラクタマーゼ阻害薬配合βラクタム系薬の使用には注意を要する.MEPMはESBL産生大腸菌には有効だが,他の細菌や,他の臓器疾患との関係で今後の検討が必要である.
著者
林 泰史
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.591-594, 2007 (Released:2007-11-30)
参考文献数
15
被引用文献数
7 or 3
著者
森崎 直子 三浦 宏子 原 修一
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.233-242, 2015-07-25 (Released:2015-08-13)
参考文献数
30
被引用文献数
1 or 0

目的:本研究は,在宅要支援および要介護高齢者の包括的栄養状態の現状を明らかにし,口腔機能との関連性を分析することを目的とした.方法:在宅要支援および要介護高齢者218名を対象に調査を行い,年齢,性別,要介護度,包括的栄養状態,口腔機能(嚥下機能,舌圧,口唇閉鎖力)のデータを得た.包括的栄養状態の評価には簡易栄養状態評価表(MNA-SF)を用い,嚥下機能の評価には地域高齢者誤嚥リスク評価指標(DRACE)を用いた.舌圧はJMS舌圧測定器を用い,口唇閉鎖力はリップデカムを用いて測定した.栄養状態と口腔機能との関連性はPearsonの相関係数およびステップワイズ重回帰分析を用いて解析した.結果:MNA-SFの平均ポイントは10.07±2.58であった.一方,DRACEの平均スコアは4.39±3.80,舌圧平均値は23.89±10.61 kPa,口唇閉鎖力の平均値は10.17±6.04 Nであった.Pearsonの相関係数では,MNA-SFはDRACE,舌圧,口唇閉鎖力と弱い相関関係を示した.加えて,交絡要因の調整のためにステップワイズ重回帰分析を行ったが,MNA-SFはDRACEと口唇閉鎖力と特に有意な関連性を示し,決定係数は0.20(p<0.01)であった.結論:在宅要支援および要介護高齢者の包括的栄養状態は嚥下機能や口唇閉鎖力と有意に関連していた.
著者
野本 愼一 中西 由佳
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.276-281, 2011 (Released:2011-07-15)
参考文献数
18
被引用文献数
1 or 0

目的:中規模一般病院に通院する後期高齢者を対象に処方実態を解析し,その問題点について検討した.方法:地域の患者診療が中心の中規模一般病院を連続した6日間に受診し,かつ処方を受けた後期高齢者159名(男性59名,女性100名,年齢80.6±4.5歳)を対象とし,過去9カ月間に受診した院内診療科,および調査時点で過去3カ月以上固定していた定期処方内容(1,031剤)を調査・解析した.結果:過去9カ月間に2診療科以上受診していた患者は121名(76.1%)であった.定期処方の薬剤数は最大15剤,平均6.5±3.5剤,服用錠数は最大36錠,平均12.4±7.8錠であった.6剤以上の多剤処方例は92名(57.9%)にみられた.薬効別の処方頻度は,1,031剤のうち降圧薬20.3%,高脂血症用薬5.4%,抗血栓剤5.0%,糖尿病用薬3.5%,骨粗鬆症・骨代謝改善薬3.2%であった.また,対症療法薬は消化性潰瘍治療薬・健胃消化薬(以下抗潰瘍健胃薬)15.8%,催眠・鎮静・抗不安薬(以下催眠薬)9.0%,下剤8.1%,鎮痛薬3.5%であった.そのほか,ビタミン製剤は5.1%,漢方便秘薬を除いた漢方薬は2.1%であった.同効薬の多剤処方例は,降圧薬55.9%,催眠薬43.5%,抗潰瘍健胃薬36.8%,下剤35.6%であった.最高併用薬剤数は降圧薬処方例の5剤であった.高齢者に対して慎重投与を要する薬物は全処方1,031剤中4.8%で,159人中48人(30.2%)に処方されていた.結論:一つの中規模一般病院に通院する後期高齢者を対象とした処方実態調査という限界はあるが,複数診療科受診例,多剤処方例が大学病院を対象とした報告よりも多く見られた.また,同効薬を多剤併用した例は降圧薬,抗潰瘍健胃薬,催眠剤,下剤に多くみられた.後期高齢者の多剤処方を減らすには,処方を見直す機会を定期的に作り,医師のみならず薬剤師,看護師などを含めたチームでこの問題に取り組む必要があると考える.
著者
谷口 優 清野 諭 藤原 佳典 野藤 悠 西 真理子 村山 洋史 天野 秀紀 松尾 恵理 新開 省二
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.269-277, 2015-07-25 (Released:2015-08-13)
参考文献数
25
被引用文献数
1 or 0

目的:本研究では,1.身体機能,骨格筋量,及び身体機能と骨格筋量に基づくサルコペニアと認知機能との横断的な関連 2.身体機能,骨格筋量,及びサルコペニアと認知機能低下との縦断的な関連をそれぞれ明らかにすることを目的とした.方法:群馬県草津町在住の65歳以上を対象とした介護予防健診データをもとに,ベースライン調査(2008年から2011年)が完了した805名を横断的解析対象者とし,その後2012年までに再度認知機能検査が完了した649名を縦断的解析対象者とした.身体機能は,握力及び通常歩行速度から身体機能得点を算出した.認知機能はMini-Mental State Examination(MMSE)により評価し,追跡期間中の年平均変化量0.5点以上の低下を認知機能低下(CD)有りと定義した.結果:身体機能,骨格筋量及びサルコペニアと認知機能との間にそれぞれ有意な横断的な関連性がみられた.縦断的解析では,平均追跡期間3.0±1.1年に201名(31.0%)のCDがみられた.重要な交絡要因を調整したロジスティック回帰分析を行った結果,CD有りに対する身体機能[OR=0.75(95%信頼区間0.65~0.87)]に有意な関連性がみられたが,骨格筋量には有意な関連性はみられなかった.AWGS(Asia Working Group for Sarcopenia)基準による身体機能と骨格筋量の組み合わせにより分類した低身体機能かつ骨格筋量正常群は,身体機能と骨格筋量いずれも正常群に比べてCD発生リスクが有意に高かった[OR=2.10(1.18~3.38)].一方,低身体機能かつ低骨格筋量群(サルコペニア)ではCD発生に対する差の傾向がみられた[OR=1.57(0.93~2.63)].結論:地域在宅高齢者の身体機能,骨格筋量及びサルコペニアは,それぞれ認知機能の関連要因であった.高齢期の身体機能は,CDに対して社会医学的要因とは独立した予測因子であり,骨格筋量が正常であっても低身体機能の高齢者は将来認知機能が低下するリスクが高いことが示唆された.
著者
石川 和信
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.84-87, 2013 (Released:2013-08-06)
参考文献数
4
被引用文献数
2 or 0

東日本大震災に引き続いた東電福島第一原発事故から1年を経た.現在も15万人を超える福島県民が県内外への広域避難を余儀なくされている.多くが仮設住宅・借り上げアパートに家族が分かれて転居せざるを得なかった結果,高齢者を支える健常な家族関係やコミュニティーの機能が大きく低下している.長期の度重なる避難の影響もあり,東日本大震災による震災関連死は既に1,300人超となり(2012.3現在),既に阪神大震災のそれを超えた.体力の低下した高齢者の誤嚥性肺炎,突然死を含む心血管疾患,自殺がその上位を占めている. 一方,低線量被曝による安全性への懸念から福島県内の幼児の外遊び時間は平均13分と極端に減少し,3世代同居の多い東北地方の高齢者が戸外で孫達と遊ぶ楽しみも奪われている.見えざる放射能を恐れる心理は高齢者にも認められ,健康のために継続してきた散歩や運動を敬遠する状況が生まれている.また,コメ・畑作りの多くを担い,農業を生業としてきた高齢者も農作物の安全基準への対応の困難さ・風評被害・豊穣感の喪失から耕作をついに放棄する方が増えている.酪農による堆肥の汚染,里山からの山菜・きのこの収穫禁止など,多くの地の恵みが汚染物とされ,中山間地のリサイクルも破壊されている.里山の利を活かしてきた高齢者ほど,地域の喪失感に耐えて居られるように映る. 原発避難の町村が復興のために実施しているアンケート調査では高齢者ほど望郷の思いが強く早期帰還の希望が強い.一方,商工業,医療機関,介護施設を担う若年層の帰還への懸念・不安は強く,複雑な要因が絡まっている.各世代のライフステージの差異が原発事故への対応に異なる態度を生じている.
著者
大類 孝
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.458-460, 2013 (Released:2013-09-19)
参考文献数
5

肺炎は長らくわが国の疾患別死亡の第4位を占めてきたが,厚生労働省の2011年度の報告によれば,ついに脳血管障害を抜いて第3位になり正に現代病の様相を呈している.また,近年のデータから肺炎で亡くなる方の約95%が65歳以上の高齢者で占められ,肺炎は老人の悪友であるといえる.高齢者の肺炎の大部分が誤嚥性肺炎であると報告されている.誤嚥性肺炎(広義)は,臨床上Aspiration pneumoniaとAspiration pneumonitisに分けられるが,両者はオーバーラップする事もある.高齢者の肺炎の多くはAspiration pneumoniaであり,その危険因子として最も重要なものは脳血管障害などに併発しやすい不顕性誤嚥である.不顕性誤嚥は,脳血管障害の中でも特に日本人に多い大脳基底核病変を有している人に多く認められる.誤嚥性肺炎の最良の予防法は,脳血管障害ならびに脳変性疾患の適切な予防ならびに治療であるが,他に,降圧剤のACE阻害薬,ドーパミン作動薬のアマンタジン,抗血小板薬のシロスタゾール,漢方薬の半夏厚朴湯,クエン酸モサプリドなどの不顕性誤嚥の予防薬も有効で,これらは肺炎のハイリスク高齢患者において肺炎の予防効果を有する.