- 著者
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高辻 正基
- 出版者
- 日本植物工場学会
- 雑誌
- 植物環境工学 (ISSN:18802028)
- 巻号頁・発行日
- vol.22, no.1, pp.2-7, 2010-03-01
- 被引用文献数
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10
27
完全制御型植物工場の現状。日本の平成20年度の食糧自給率はカロリーベースで41%、穀物自給率に至っては28%でOECD諸国の中では最低である。また休耕地と耕作放棄地は150万ヘクタールにのぼるとも言われている。これらはたしかに深刻な事態ではあるが、工業が発展した先進国で農業人口が急減し農業が衰退するのは必然であろう。これは何も日本に限ったことではないのであるが、日本の特殊性は農地当りの人口密度が極めて高いことにある。そのため自給率の低さが目立ち、休耕地の増大が問題視される。日本農業の新しい展開としては、その零細性(大規模化が困難)と工業のポテンシャルと合わせて、高付加価値農業(植物工場とバイオ農業)に向うのが有力であると考えられる。天候や場所に捉われずに作物を大量生産できる植物工場は日本に適した農法である。異常気象が来ようが狭い土地であろうと、都会のビルの中でも大量生産でき、また知的営農であるから若年層の就農希望も期待できる。ただ現状の問題点は対象が主に野菜であるから自給率にはほとんど寄与できないことと、初期導入コストと生産コストがかなりかかることである。植物工場とは野菜や苗を中心とした作物を施設内で光、温湿度、二酸化炭素濃度、培養液などの環境条件を人工的に制御し、季節に関係なく自動的に連続生産するシステムをいう。ほとんどの植物工場で制御しやすい水耕栽培を使っている。しかし土壌栽培による植物工場も可能で、最近では有機植物工場の試みもある。植物工場野菜の特徴としては無農薬、洗わずにそのまま食べられる、長持ちする、えぐみや苦味が少なく食べやすい、ロスが少ない、などが挙げられる。最近の消費者の安全・安心への志向、健康志向にピッタリである。