- 著者
-
光岡 知足
- 出版者
- 公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
- 雑誌
- 腸内細菌学雑誌 = Journal of intestinal microbiology (ISSN:13430882)
- 巻号頁・発行日
- vol.26, no.4, pp.211-222, 2012-10-01
- 参考文献数
- 36
私は,生まれつき内気で.小学校では,絵・ポスター・書の制作,昆虫標本・模型の製作に熱中した.成蹊高校尋常科に入学し,よき師友に出会い,草川信先生により「クラッシック音楽」に開眼,中村草田男先生から「純粋に生きる尊さ」を教わり,これが,私の終生の信条となった.終戦とともに授業が再開され,植物学の前川文夫先生の講義に深い感銘を受けた.高等科に進学した頃,人生に悩んだが,その時,私の心を支えてくれたのは河合栄治郎著『学生に与う』と矢内原忠雄先生の言葉であった.東大に入学し,再びよき師友にめぐり合うことができ,研究者となることを決意した.大学院で,越智勇一先生の指導を受けたことが,私の人生を決定づけた.BL培地を開発し,成人の腸内にビフィズス菌が優勢菌として検出されることを発見,これが今日までの研究の基礎となった.1964年から2年間のベルリン留学により海外のよき研究者と知己を得,その後の研究に計り知れない恩恵を受けた.帰国後,多菌株接種装置および腸内フローラの包括的検索法を開発,腸内フローラの生態学的法則を明らかにし,"腸内細菌学"を開拓し,次いで発酵乳・オリゴ糖の効用を発見し,"バイオジェニックス"を提唱した.創造には,「直観」が重要である.直観は,純粋な心で,強靭な忍耐力をもって真理を探求する過程で突如として現れる.研究者は,清廉潔白に徹せねばならない.私は『創造の成果は,純粋な心で,努力を重ねた結果,授けられるものである』と確信している.<br>