著者
細野 朗
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.203-209, 2013 (Released:2013-11-07)
参考文献数
22

生体で最大の免疫系組織である腸管には膨大な数と種類の腸内細菌が共生し,宿主の消化吸収はもちろんのこと,免疫系に対しても大きな影響を及ぼしている.Bacteroidesはヒトやマウスの腸内細菌叢を構成する細菌の優勢菌のひとつであるが,その菌種としての特性や宿主に及ぼす機能性に注目した研究は,近年注目されてきている.腸内共生菌は摂取した食品由来成分や腸内共生菌の代謝産物などの腸内環境によって強く影響を受けており,Bacteroidesはオリゴ糖をはじめとする難消化性糖類を資化することができる.特に,Bacteroidesがフラクトオリゴ糖やその構成糖であるGF2およびGF3をいずれも資化することで腸内でのBacteroidesの増殖が活性化される.また,Bacteroidesは腸管免疫系に対して免疫修飾作用を有し,小腸パイエル板細胞に対するIgA産生誘導能はLactobacillusよりも強い.腸管関連リンパ組織の形成が未熟な無菌マウスに対しては,Bacteroidesを投与することによって小腸および盲腸のリンパ節における胚中心の形成を誘導するとともに,腸管粘膜固有層での総IgA産生を活性化することができる.さらに,Bacteroidesの菌体成分による免疫修飾作用は抗原提示細胞を介したT細胞応答の活性化や炎症反応の制御などを通して,生体の生理機能にも大きな影響を与えていると考えられる.
著者
須藤 信行
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.25-29, 2005 (Released:2005-07-05)
参考文献数
24

常在細菌叢は,体表面積の95%以上を占める広大な粘膜面を介して生体と接触しており,その細菌数は成人で10 14,重量にして1 kgにも相当するとされている.これら常在細菌は,生後の消化管免疫組織の分化,発達において重要な役割を演じているが,最近では他の様々な生理機能へも関与していることが明らかにされつつある.ストレスにより腸内細菌叢が変化することは,古くから指摘されてきたことであるが,最近の研究により腸内細菌の違いがストレス曝露時の主要経路のひとつである視床下部-下垂体-副腎軸の反応性を変化させることを明らかにした.このように脳と腸内細菌は神経系,内分泌系,免疫系を介して相互に情報伝達していることが明らかとなった.
著者
落合 邦康 今井 健一 落合(栗田) 智子
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.111-120, 2014 (Released:2014-07-31)
参考文献数
30

全ての腸内フローラ構成細菌と食物は,口腔を経由して腸管に至り,複雑な腸内フローラが形成される.腸管の生理作用と恒常性維持における腸内フローラの有益性,そして,食物繊維やオリゴ糖の生理作用の本体が短鎖脂肪酸(SCFA)であることは広く知られている.一方,慢性炎症性疾患・歯周病は,糖尿病や動脈硬化などさまざまな全身疾患の誘因となることがさまざまな分野で報告され,口腔と全身疾患との関わりが広く注目されている.歯周病の主要原因菌である一群の口腔嫌気性グラム陰性菌は,大量のSCFA,特に酪酸を産生する.口腔において高濃度の酪酸は,歯周組織にさまざまな為害作用を及ぼすと同時に,口腔環境維持に重要なレンサ球菌群の発育を阻害し,デンタルプラーク蓄積を仲介するActinomyces属の増殖を促進するため,病原性プラークへの遷移が促進される.また,酪酸は,そのエピジェネティック制御作用により,潜伏感染状態にあるヒト免疫不全ウイルスやEpstein-Barrウイルスを再活性化し,AIDSや種々の腫瘍発症に関与すると共に,がん細胞の転移にも関与する可能性が示唆される.細菌の代謝産物・酪酸は,口腔と腸管ではなぜ異なった作用を示すのか,共生細菌と宿主(組織)間の相互作用を理解する上からも興味深い.内因性感染症や共生細菌研究において,菌体が宿主に及ぼす直接的影響の研究と共に,新たな視点から,SCFAなどさまざまな代謝産物の影響を検討することも極めて有意義と考える.さらに,粘膜免疫の帰巣循環システムの視点から,腸内フローラと腸管粘膜経由による口腔・歯周組織免疫応答の維持,改善に関わる研究も期待できる.
著者
江石 義信
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.23-29, 2009 (Released:2009-02-10)
参考文献数
14
被引用文献数
1

常在性細菌と疾患との関連性があちこちで話題になりつつある.なかでもサルコイドーシスとアクネ菌についてわが国では長年の研究蓄積を有しており,最近では本症の奇異な病態を説明しうるようなアクネ菌の興味ある生体内特性や内因性感染症としての新しい疾病発生機構が徐々に見えつつある.既によく知られている「帯状疱疹ウイルスのストレスによる活性化」や「結核の内因性再燃」などの現象と同様に,初期感染(不顕性感染)後に宿主の細胞内で冬眠状態にある細胞壁欠失型アクネ菌が内因性に活性化することが,サルコイドーシスという全身性肉芽腫疾患の発症をトリガーしている可能性がある.疾病素因として本菌に対するアレルギー素因を有する個体では,内因性に本菌が活性化するたびごとに増菌局所で肉芽腫反応が生じてくるものと想定され,細胞内細菌に感受性のある抗生剤の投与は,新たな細胞内増菌を防止する観点から肉芽腫形成の予防に有効である可能性が高い.また,本症からの完全寛解を目指すためには,代謝活性を低下させて生き残りを図る冬眠状態の菌も含めて排除する必要があり,近年では米国患者団体が主体となり通常の感染症とは異なる除菌プロトコール(マーシャルプロトコール)が検討されつつある.
著者
倉島 洋介
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.159-166, 2018 (Released:2018-10-31)
参考文献数
36

マスト細胞(肥満細胞)は,消化管粘膜や皮膚といった生体の最前線のバリア機構を担う部位に存在している.粘膜面に存在するマスト細胞は,コンドロイチン硫酸やプロテアーゼによって古くから寄生虫や細菌の排除にかかわることが知られており,病原体「排除」に重要な機能を有する.その一方で,食物アレルギーをはじめとしたアレルギー反応の中核として働くことも知られており,アレルギー・炎症疾患においては我々に不利益をもたらす炎症性メディエーターを分泌し「悪玉」として働く.マスト細胞の活性化には今から50年ほど前に発見されたIgE抗体を介した反応が主たる機序として考えられているが,最近IgEを介さないマスト細胞の活性化がアレルギーや炎症疾患の増悪化にかかわることも報告されている.我々は消化器疾患の1つであるクローン病において活性化したマスト細胞が粘膜面に散見されるという過去の知見から,マスト細胞の活性化因子の同定を目指した.その結果,細胞外に放出されたアデノシン3リン酸(ATP)が深く関わることが見出された.細胞外ATPはダメージを受けた細胞からだけではなく一部の腸内細菌からも放出されることが報告されており,共生関係(commensal mutualism)の形成に重要な因子としても近年注目されている.興味深いことに,マスト細胞の細胞外ATPへの反応性は粘膜に比べ皮膚では低く保たれていることが明らかとなっている.これはマスト細胞の「組織特異性」を示す新たな知見であり,この組織特異性は間葉系細胞の働きによって賦与されていることが明らかとなった.この組織特異性が破たんした状態では,重度の慢性炎症が導かれるが常在菌がない状態では炎症が起こらないことが示されている.すなわち,常在菌との共生ニッチである生体バリアの恒常性維持には,間葉系細胞によるマスト細胞の機能調整が重要であることが明らかとなっている.今後,「共生と排除」制御破綻ともいえる様々な慢性炎症性疾患の発症部位において,マスト細胞をはじめとする免疫細胞の「組織特異性の攪乱」といった視点から間葉系細胞との相互作用に着目し解析することが新たな治療法の確立につながると期待される.
著者
金城 順英 土橋 良太
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.223-233, 2012 (Released:2012-12-28)
参考文献数
34

大豆はイソフラボンとサポニンなどのフィトケミカルを豊富に含むことでも有名であり,そのうちイソフラボンはエストロゲン様作用を示すことが知られている.また食用豆類の伝承的薬効としてサポニンによる利尿作用なども知られている.一方,葛花はマメ科クズの花部を用いる生薬で肝保護作用を示すが,その活性本体はイソフラボンとサポニンであり,構造的に大豆成分と酷似している.構造上の微妙な相違点が,どのように生物活性に影響を与えるのか,腸内細菌叢による代謝反応が活性化に必要ではないかと推論し,ヒト由来の腸内細菌を用い実験を企図した.その結果,以下の知見が得られた.【1】肝保護作用において,a)サポニンではよりシンプルな構造が寄与し(C-24 methyl基),葛花サポニンの方が大豆サポニンより若干強い作用を示す.b)イソフラボンでは葛花イソフラボンのみ肝保護作用を示す.【2】女性ホルモン様作用は,大豆イソフラボンのよりシンプルな構造が顕著に寄与し,大豆イソフラボンのみに認められ,葛花イソフラボンには全く認められない.【3】腎保護(抗補体)作用において,大豆サポニンの腸内細菌および肝臓で代謝されたsoyasapogenol B monoglucuronideが葛花サポニンの代謝物に比べ強い活性を示す.【4】これらの活性発現において,腸内細菌による影響(代謝活性化)が非常に大きい.
著者
西川 武志 小林 菜津美 岡安 多香子 山田 玲子 磯貝 恵美子 磯貝 浩 山下 利春
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.321-327, 2006 (Released:2006-11-28)
参考文献数
9
被引用文献数
2

カテキンの抗菌活性については多くの報告がみられている.一方,最近ペットボトル等のお茶を飲む人が多くなっている.そこで,市販のカテキン含有飲料の病原性大腸菌感染症に対する予防効果を検討することを目的として,腸管出血性大腸菌O157(EDL931およびHK)および非病原性大腸菌MV1184に対するカテキン含有飲料の増殖抑制作用について検討した.また,併せて毒素産生抑制作用についても検討した.紅茶,緑茶1,緑茶2および番茶は大腸菌に対して強い増殖抑制作用を示した.この中でもカテキン含有量の最も多い緑茶2が,すべての大腸菌に対し極めて強い増殖抑制作用を示した.また,供試したE. coli O157はベロ毒素1型(VT1)産生株であり,紅茶,緑茶1,緑茶2,および番茶によって毒素の産生は抑制あるいは阻止された.これらの結果から,茶を飲用することは,O157をはじめとする病原性大腸菌感染症を予防するのに有効であると考えられた.
著者
江石 義信
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 = Journal of intestinal microbiology (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.23-29, 2009-01-01
参考文献数
14

常在性細菌と疾患との関連性があちこちで話題になりつつある.なかでもサルコイドーシスとアクネ菌についてわが国では長年の研究蓄積を有しており,最近では本症の奇異な病態を説明しうるようなアクネ菌の興味ある生体内特性や内因性感染症としての新しい疾病発生機構が徐々に見えつつある.既によく知られている「帯状疱疹ウイルスのストレスによる活性化」や「結核の内因性再燃」などの現象と同様に,初期感染(不顕性感染)後に宿主の細胞内で冬眠状態にある細胞壁欠失型アクネ菌が内因性に活性化することが,サルコイドーシスという全身性肉芽腫疾患の発症をトリガーしている可能性がある.疾病素因として本菌に対するアレルギー素因を有する個体では,内因性に本菌が活性化するたびごとに増菌局所で肉芽腫反応が生じてくるものと想定され,細胞内細菌に感受性のある抗生剤の投与は,新たな細胞内増菌を防止する観点から肉芽腫形成の予防に有効である可能性が高い.また,本症からの完全寛解を目指すためには,代謝活性を低下させて生き残りを図る冬眠状態の菌も含めて排除する必要があり,近年では米国患者団体が主体となり通常の感染症とは異なる除菌プロトコール(マーシャルプロトコール)が検討されつつある.<br>
著者
光岡 知足
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.1-10, 2002 (Released:2010-06-28)
参考文献数
35
被引用文献数
1

世紀の後半, 腸内フローラの研究が急速に進展し, 腸内フローラの検索・培養法と腸内嫌気性菌の菌種の分類・同定法が確立されて, 多くの微生物生態学的知見が集積し, 腸内フローラの宿主の健康や疾病における役割が明らかにされた.このように, 腸内フローラのうちBifidobacteriumのような有用菌を優勢にし, Clostridiumのような有害菌を劣勢にコントロールすることがきわめて重要である.このような腸内フローラの研究の進展が基礎となって, 機能性食品が登場した.機能性食品はその作用機構に基づいて, “Probioticsプロバイオティクス”, “Prebioticsプレバイオティクス”, “Biogenicsバイオジェニックス” に分けられる.プレバイオティクスは, 結腸内の有用菌の増殖を促進し, あるいは, 有害菌の増殖を抑制することによって宿主の健康に有利に作用する難消化性食品成分で, ラクツロース, スタキオース, ラフィノース, フラクトオリゴ糖, 大豆オリゴ糖, 乳果オリゴ糖, ガラクトオリゴ糖, イソマルトオリゴ糖, キシロオリゴ糖, パラチノースなどの難消化性オリゴ糖がこれに含まれる.多くのオリゴ糖は, 試験管内でBifidobacterium (B.bifidumを除く) により, また, Bacteroides fragilis groupやEnterococcusによってある程度発酵されるが, C.perfringensやEscherichia coliによっては発酵されない.オリゴ糖の摂取は, 腸内Bifidobacteriumフローラの増殖を促進し, その結果, 宿主の便性改善と腸内環境の浄化に働き, それによって宿主の脂質代謝も改善する.
著者
入江 潤一郎 伊藤 裕
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.143-150, 2017

睡眠はsleep homeostasisと,中枢の時計遺伝子の支配を受ける概日リズム(circadian-rhythm)により制御されている.末梢臓器である腸管も時計遺伝子による制御を受け,腸内細菌の組成と機能には概日リズムが認められる.時差症候群や睡眠時間制限などによる睡眠障害は,腸内細菌の概日リズムに変調をもたらし,dysbiosisや腸管バリア機能低下を惹起し,宿主のエネルギー代謝異常症の原因となる.規則正しい摂食は腸内細菌の概日リズムを回復させ,中枢時計との同調を促し,睡眠障害の治療となる可能性がある.またプレ・プロバイオティクスなど腸内細菌を介した睡眠障害の治療も期待されている.<br>
著者
佐々木 雅也 荒木 克夫 辻川 知之 安藤 朗 藤山 佳秀
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 = Journal of intestinal microbiology (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.1-8, 2005-01-01
参考文献数
21
被引用文献数
1

腸管粘膜細胞の増殖・分化は,消化管ホルモンなどの液性因子や食餌由来の腸管内増殖因子などにより巧妙に調節されている.腸管内の増殖因子として,ペクチンなどの水溶性食物繊維には顕著な腸粘膜増殖作用があり,それには発酵性と粘稠度が関与している.発酵により生じた短鎖脂肪酸,特に酪酸は大腸粘膜細胞の栄養源であり,腸管増殖因子としても作用する.一方,酪酸には抗炎症作用があり,傷害腸管の修復にも関与する.これらは,デキストラン硫酸(DSS)にて作成した潰瘍性大腸炎モデルにおいても確認されている.さらに,酪酸産生菌である <i>Clostridium butyricum</i> M588経口投与によってもDSS大腸炎の炎症修復が確認された.一方,発芽大麦から精製されたGerminated barley foodstuff (GBF)は,潰瘍性大腸炎モデルなどによる基礎研究の成績をもとに臨床応用され,優れた臨床成績から病者用食品として認可されている.また,レクチンにも食物繊維と同様の腸粘膜増殖作用があるが,これらは腸内細菌叢に影響を及ぼすことなく,おもに腸粘膜への直接的な増殖作用とされている.これらの増殖因子は傷害からの修復にも寄与するものと考えられる.<br>
著者
内山 成人 上野 友美 鈴木 淑水
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.217-220, 2007 (Released:2007-08-17)
参考文献数
16
被引用文献数
6

大豆イソフラボンのエストロゲン様作用/抗エストロゲン作用による健康ベネフィットが期待されているが,最近はその代謝物であるエクオールの生理作用が注目されている.エクオールは,腸内細菌により産生される活性代謝物であるが,その生成には個人差が存在し,エクオールを産生できない非産生者がいる.エクオール非産生者では,大豆イソフラボンを摂取しても十分な効果が期待できないと考えられる.そこで,我々は,食品として利用可能なエクオール産生菌を探索することを目的として,ビフィズス菌と乳酸菌(ラクトバチラス属)についてスクリーニングを行い,さらにヒト糞便中からの単離を検討した.ビフィズス菌と乳酸菌(ラクトバチラス属)の登録株213株のエクオール産生能を評価したが,いずれの菌株にもエクオール産生能は認めなかった.健常成人の糞便よりエクオール産生菌として新たに3菌株を単離し,1菌株に乳酸生成を認めたため16S rDNAシークエンス解析により同定した.その結果,Lactococcus garvieaeと同定され,菌株名を“ラクトコッカス20-92”とした.ラクトコッカス20-92によるエクオールの生成は,増殖後の菌数が定常状態になって発現するという特徴を示した.我々は,エクオール産生菌として食品に利用可能と考える乳酸菌(ラクトコッカス20-92株)を単離することに初めて成功した.これにより,今後,ラクトコッカス20-92株の食品への応用が期待できるものと考える.
著者
指原 紀宏
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.197-202, 2013 (Released:2013-11-07)
参考文献数
22
被引用文献数
1

乳酸菌の中には宿主の免疫応答を刺激する作用を有するものがあり,種々の免疫関連疾患に対する改善効果が考えられることから,実用化を目的としてその有用性を検証した.Th1/Th2バランスを是正する免疫調節活性の高いL. gasseri OLL2809を選出し,その有効性を評価すると抗原特異的IgEの抑制効果や好酸球増多に対する抑制効果が認められた.同株を用いてスギ花粉症罹患者を対象に臨床試験を実施したところ,鼻づまり等の鼻症状が軽減された.その他の免疫関連疾患として,NK活性との関連が示唆される子宮内膜症に対しては,モデル動物において病変部の成長抑制効果が認められた.さらに,子宮内膜症罹患者を対象に有効性を臨床評価したところ,主症状である月経痛に軽減が認められた.以上の一連の研究から,高い免疫調節活性を示すOLL2809株は,アレルギーや子宮内膜症等の免疫関連疾患に対して症状の軽減等に有効であり,罹患者のQOLの向上に貢献できることが明らかになった.
著者
山田 拓司
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.19-22, 2015 (Released:2015-01-27)
参考文献数
13

ヒト腸内細菌解析は近年の次世代シーケンサーの爆発的な進歩により飛躍的な発展を遂げている.本稿では菌叢解析法としてメタゲノム解析に焦点を当て,実験的及び情報解析のパイプラインの概要を紹介する.現在まさに発展途上の技術であり,様々な側面においてその利点と問題点を紹介していく.
著者
内山 成人 上野 友美 鈴木 淑水
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 = Journal of intestinal microbiology (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.217-220, 2007-07-01
参考文献数
16
被引用文献数
3

大豆イソフラボンのエストロゲン様作用/抗エストロゲン作用による健康ベネフィットが期待されているが,最近はその代謝物であるエクオールの生理作用が注目されている.エクオールは,腸内細菌により産生される活性代謝物であるが,その生成には個人差が存在し,エクオールを産生できない非産生者がいる.エクオール非産生者では,大豆イソフラボンを摂取しても十分な効果が期待できないと考えられる.そこで,我々は,食品として利用可能なエクオール産生菌を探索することを目的として,ビフィズス菌と乳酸菌(ラクトバチラス属)についてスクリーニングを行い,さらにヒト糞便中からの単離を検討した.ビフィズス菌と乳酸菌(ラクトバチラス属)の登録株213株のエクオール産生能を評価したが,いずれの菌株にもエクオール産生能は認めなかった.健常成人の糞便よりエクオール産生菌として新たに3菌株を単離し,1菌株に乳酸生成を認めたため16S rDNAシークエンス解析により同定した.その結果,<i>Lactococcus garvieae</i>と同定され,菌株名を"ラクトコッカス20-92"とした.ラクトコッカス20-92によるエクオールの生成は,増殖後の菌数が定常状態になって発現するという特徴を示した.我々は,エクオール産生菌として食品に利用可能と考える乳酸菌(ラクトコッカス20-92株)を単離することに初めて成功した.これにより,今後,ラクトコッカス20-92株の食品への応用が期待できるものと考える.<br>
著者
福田 真嗣
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.145-155, 2015 (Released:2015-08-01)
参考文献数
46
被引用文献数
1

メタボロゲノミクス(Metabologenomics)とは,代謝物質を網羅的に解析するメタボロミクス(Metabolomics)と,腸内細菌叢遺伝子を網羅的に解析するメタゲノミクス(Metagenomics)とを組み合わせた研究アプローチである.われわれの腸管内には多種多様な腸内細菌が生息しており,それら腸内細菌叢が宿主腸管細胞と相互作用することで異種生物で構成される複雑な腸内生態系,すなわち腸内エコシステムを形成している.腸内エコシステムの恒常性を維持することがヒトの健康維持・増進に大きく寄与していることが近年明らかになりつつあるが,逆に腸内細菌叢のバランスが崩れることで腸内エコシステムが大きく乱れると,大腸がんや炎症性腸疾患といった腸管関連疾患のみならず,自己免疫疾患や代謝疾患といった全身性の疾患につながることも報告されている.したがって,腸内細菌叢を異種生物で構成される一つの臓器として捉え,その機能を理解し制御することが,疾患予防・健康維持における新たなストラテジーとして重要と考えられる.近年,特に腸内細菌叢のメタゲノム解析やメタトランスクリプトーム解析により,個々人の腸内細菌叢遺伝子地図や推定される遺伝子機能に関する研究は盛んに行われている.しかし,腸内細菌叢による宿主への直接的な作用を理解する上で重要なカギを握るのは,腸内細菌叢から産生される種々の代謝物質と考えられる.本稿では,腸内細菌叢由来代謝物質が宿主の健康状態にどのように影響しているのかについて,メタボロミクスによる全容理解に向けた近年の取り組みについて紹介するとともに,腸内細菌叢変動とも組み合わせたメタボロゲノミクスの有用性についても議論する.
著者
新 良一 伊藤 幸惠 片岡 元行 原 宏佳 大橋 雄二 三浦 詩織 三浦 竜介 水谷 武夫 藤澤 倫彦
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.15-24, 2014 (Released:2014-02-11)
参考文献数
39

豆乳の発酵産物が宿主に及ぼす影響を検討した報告は少ない.今回,我々は豆乳の乳酸菌発酵産物(SFP: Soybean milk-Fermented Product)がヒト腸内細菌叢に及ぼす影響を検討し,さらに大腸の発がん予防とその作用機序についても合わせて検討した.SFPは豆乳を複数の乳酸菌と酵母で混合培養後殺菌し,凍結乾燥して調製した.一般的な日本食を食べているボランティアにSFPを摂取させ(450 mg/day/head for 14 days),腸内細菌叢の変化を比較したところ,SFP群はプラセボ群よりBifidobacteriumの占有率が25%以上増加した人数が多かった(P<0.05).さらに,昼食のみを一般的な日本食から肉食中心の欧米食(肉摂取量約300 g,900 kcal)に3日間変えると,Clostridiumの占有率は増加したが(P<0.05),SFPを摂取(900 mg/day/head)すると減少した(P<0.05).また,SFPの摂取でBifidobacteriumの占有率が増加した(P<0.05).このボランティアの糞便中β-glucuronidase活性は,昼食を肉食中心の欧米食にすると一般的な日本食摂取時より5倍以上増加したが(P<0.01),SFP摂取で一般的な日本食時のレベルにまで減少した(P<0.05).以上の結果は,SFPが多くのプロバイオティクスなどで示されている大腸がんの発がんリスクを軽減する可能性を示唆していると考え,以下の検討を試みた.即ち,SFPが大腸がんの発がんに及ぼす影響は大腸がん誘起剤1,2-dimethylhydrazine (DMH)をCF#1マウスに投与する化学発がんモデルを用いて検討した.SFPはDMH投与開始時から飼料中に3%(W/W)混和して与え,大腸に発がんした腫瘤数を検討した結果,有意な抑制が認められた(P<0.05).一方,SFPの抗腫瘍作用機序は,Meth-A腫瘍移植モデルで検討した.SFP(10 mg/0.2 ml/day/head)は化学発がんモデルと同様にMeth-A腫瘍移植前から実験期間中投与し,抗腫瘍効果が得られた脾細胞を用いた Winn assayでその作用機序を検討した.その結果,SFP群のみは移植6日目以降でMeth-A単独移植群に比べ有意な腫瘍増殖抑制が認められ(P<0.05),担癌マウスの脾細胞中に抗腫瘍作用を示す免疫細胞群が誘導された可能性が考えられた.Bifidobacteriumを定着させたノトバイオートマウスは無菌マウスより脾細胞数が増加したが,無菌マウスにSFPや豆乳(10 mg/0.2 ml/day/head)を4週間連日経口投与しても,脾細胞数は生理食塩液を投与した無菌マウスと差が認められなかった.これらのことからSFPの抗腫瘍効果には腸内細菌が宿主免疫に関与した可能性が示唆されたが,その詳しい機序については今後の検討が必要である.
著者
光山 慶一 増田 淳也 山崎 博 桑木 光太郎 北崎 滋彦 古賀 浩徳 内田 勝幸 佐田 通夫
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.143-147, 2007 (Released:2007-05-31)
参考文献数
15

プロピオン酸菌による乳清発酵物は,乳清をエメンタールチーズ由来のプロピオン酸菌で発酵させて製造したプレバイオティクスである.その主要成分である1,4-dihydroxy-2-naphthoic acidはビフィズス菌を特異的に増殖させ,腸内環境を宿主に有益な方向へ導くことが可能である.我々は,本食材が実験大腸炎モデルや潰瘍性大腸炎患者に有用であることを明らかにした.本稿では,これまでに報告されたプロピオン酸菌による乳清発酵物の特性について概説するとともに,潰瘍性大腸炎への治療応用について述べる.
著者
光岡 知足
出版者
公益財団法人 日本ビフィズス菌センター
雑誌
腸内細菌学雑誌 = Journal of intestinal microbiology (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.211-222, 2012-10-01
参考文献数
36

私は,生まれつき内気で.小学校では,絵・ポスター・書の制作,昆虫標本・模型の製作に熱中した.成蹊高校尋常科に入学し,よき師友に出会い,草川信先生により「クラッシック音楽」に開眼,中村草田男先生から「純粋に生きる尊さ」を教わり,これが,私の終生の信条となった.終戦とともに授業が再開され,植物学の前川文夫先生の講義に深い感銘を受けた.高等科に進学した頃,人生に悩んだが,その時,私の心を支えてくれたのは河合栄治郎著『学生に与う』と矢内原忠雄先生の言葉であった.東大に入学し,再びよき師友にめぐり合うことができ,研究者となることを決意した.大学院で,越智勇一先生の指導を受けたことが,私の人生を決定づけた.BL培地を開発し,成人の腸内にビフィズス菌が優勢菌として検出されることを発見,これが今日までの研究の基礎となった.1964年から2年間のベルリン留学により海外のよき研究者と知己を得,その後の研究に計り知れない恩恵を受けた.帰国後,多菌株接種装置および腸内フローラの包括的検索法を開発,腸内フローラの生態学的法則を明らかにし,"腸内細菌学"を開拓し,次いで発酵乳・オリゴ糖の効用を発見し,"バイオジェニックス"を提唱した.創造には,「直観」が重要である.直観は,純粋な心で,強靭な忍耐力をもって真理を探求する過程で突如として現れる.研究者は,清廉潔白に徹せねばならない.私は『創造の成果は,純粋な心で,努力を重ねた結果,授けられるものである』と確信している.<br>