著者
伊藤 精晤
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.p73-86, 1994-12

山村農家の敷地と農家の庭園趣味について,研究Iでは,敷地内の建物配置,境界はいくつかの型が見られた。研究IIでは,農家の趣味生活で,家族構成員のそれぞれが庭園を楽しんでおり,庭園の植物の豊富な種類と維持管理や栽培の自前の実行などから,その趣味の程度は高く,庭園の役割として,生活の実用を含めた心理的楽しみの効果が複合的に期待されていることが明らかになった。本論文では,農家庭が新たな敷地計画のもとに作られることは少なく,元来の農作物のための庭を別として敷地境界と建物配置によって生じる空き地が庭園建設の場に展開してきたことを考察する。また,農家が農業主体から住宅主体に敷地を利用するように変化しており,この敷地の機能面の変化と庭園化の関連を考察していく。敷地に庭園を作る空間的条件は建物の配置によって決まり,境界と建物間の隙間の部分の庭園化,空き地として作業庭に使われた部分の庭園への転換によって,20年から30年前に庭園の建設が行われている。この庭園の建設は趣味生活の拡大が原因となっている。敷地内の庭園部分は玄関の前庭,作業庭,表の座敷庭,裏の座敷庭,路地庭,勝手庭に区分できる。作業庭は半数が座敷庭として庭園化され,半数が作業庭として維持されている。裏の座敷庭は古くから作られることもあったが,庭園趣味と生活のゆとりの中で楽しみとして,表の座敷庭まで作られることが多くなったことが考察される。勝手庭は物干し,洗い場など設置されている。周囲の境界と建物との隙間に路地庭が作られている。玄関前庭,作業庭(主庭),裏庭,前庭,路地庭,勝手庭といった庭園配置に分化した戸外敷地を家族構成員で使い分けが行われていることが考察される。以上から,従来の農家庭の機能と骨格が存在し,これに現代生活と趣味に適合した庭園建設が行われていると結論づけられる。

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