- 著者
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江種 満子
- 出版者
- 文教大学
- 雑誌
- 文学部紀要 (ISSN:09145729)
- 巻号頁・発行日
- vol.17, no.2, pp.65-91, 2004-01
前稿で中断した「こわれ指輪」論を発展させ、テクスト全体の構造を、「女権」という主題軸と「指輪」によるレトリックの軸の相互関係としてとらえた。さらにこれらの二つの軸に埋もれるようにして、植木枝盛のいわゆる「歓楽」への視線が瞥見できる点を指摘。これはのちの紫琴時代のテクスト群がみせる粘弾性の強い人間観の貴重な兆しである。しかし紫琴時代に至るまでには、女権論者清水豊子を挫折させた二つの体験(大井事件による妊娠出産と古在由直との結婚)が介在する。この時期を、豊子書簡と古在書簡および掌篇「一青年異様の述懐」によって考えた。その後、夫の由直の留学によって僥倖のように訪れる紫琴時代をいくつかのテクストによって読み解く。なかでも「葛のうら葉」の位置は最も重要である。「葛のうら葉」は、構造的に清水豊子時代の「こわれ指輪」をなぞるかにみえて、じつはその後の豊子の体験と英知と想像力を結集して、異質な世界へ超え出た成熟の文学的達成である。