著者
林 直保子
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.19-32, 1993
被引用文献数
1

これまで行われてきた囚人のジレンマ(PD)研究は、PDを孤立した2者関係として捉えるにとどまり、集団内に存在する2者間におこる状況として捉えることをしてこなかった。本稿では、3者以上の集団と、その中に生れる複数のPD関係を考えることにより、従来のPD研究の限界を克服することを目指している。そのために本稿では、集団の各成員が自分のつきあう相手を選択し、相互指名によってPD関係が成立するという状況――「ネットワーク型囚人のジレンマ」を設定する。このような状況では、特定の2者間に将来の関係が保証されていないために、PDにおける戦略的行動によって相互協力関係を築くことは難しくなる。従ってこのような選択的交際状況においては、孤立した2者PDにおける相互協力達成のためには最も有効であるとされてきたtit-for-tat(TFT)戦略は、そのままの形で有効性を発揮することはない。本稿では、ネットワーク型PD状況ではどのような戦略が可能で、また有効なのかということを調べるために、Axelrod(1984)が同一相手との反復PDにおいて行った「戦略のコンピュータ選手権」という方法をネットワーク型PDに用いた。その結果ネットワーク型PD状況で最も有効な戦略は、相手の裏切りに対しては非指名という形で対応するout-for-tat(OFT)戦略であることが明らかにされた。このOFT戦略は、TFTと非常に良く似た性質をもつ戦略であり、対象選択レベルに適用されたTFTと言うことができる。

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