著者
谷本 奈穂 渡邉 大輔
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.55-69, 2016 (Released:2016-08-06)
参考文献数
23

本稿の目的は,近代家族の理念の出発点ともいえるロマンティック・ラブ・イデオロギーが,現在どうなっているかを検討することである.ロマンティック・ラブ・イデオロギーの概要をふりかえった後,雑誌記事の分析および別れの語彙の分析から仮説を立てた.(1)ロマンティック・ラブ・イデオロギーは90年代以降に衰退し,(2)代わりに「ロマンティック・マリッジ・イデオロギー」と名付けるべきものがせり出してきている,という仮説である.量的データから,仮説(1)(2)とも検証された.またとくに,ロマンティック・マリッジ・イデオロギーは,若い女性や恋愛機会の多い人に支持されていることも分かった.ただし,ロマンティック・マリッジ・イデオロギーは,恋愛を解放しても結婚は解放しなかった.結婚へのハードルは高いものといえる.
著者
間淵 領吾
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.3-22, 2002-06-30 (Released:2009-02-10)
参考文献数
21
被引用文献数
1

「日本人は、他国民と比較すると同質的であり、国民のあいだにコンセンサスが形成されている」と主張されることが多い。しかし、ここで「日本人同質論」と呼ぶことにするこの種の主張は、少数の事例から推論された場合が多い。一方、大規模なランダムサンプルを対象とした世論調査データによって、同一の質問内容に対する各国民の回答を計量的に分析し、この主張を検討した研究は見当たらない。そこで、国際共同世論調査であるISSP調査と世界価値観調査のデータを分析し、日本人同質論の検証を試みた。その結果、日本人の意識は必ずしも他国民より特に同質的とは言えず、家族・ジェンダー意識、政府役割観、職業意識についてはむしろ同質性が低い場合もあることがわかった。
著者
石田 浩
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.1-18, 2012 (Released:2013-03-18)
参考文献数
83
被引用文献数
3

この講演では,社会科学において原因と結果を特定していく因果推論の可能性について考えてみます.調査観察データに基づいて因果推論を試みる手法として (1) クロス集計表によるアプローチ,(2) 回帰分析によるアプローチ,(3) パネル調査データを用いた手法,(4) 反実仮想の枠組み,の4つを取り上げて詳しく検討します.最後に,社会に内在する「因果効果の異質性」に着目したオーティス・ダドリー・ダンカンの考え方と,「生成過程としての因果関係」に着目したジョン・ゴールドソープの考え方を紹介します.そしてこの2つの考え方が実は補完的であり,調査観察データを用いた因果推論の過程で,社会科学者が本来引き受けるべき重要な課題を,2人の偉大な社会科学者が指摘していることを主張します.
著者
内田 龍史
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.139-153, 2007-10-31 (Released:2008-01-08)
参考文献数
25
被引用文献数
3

近年、フリーターの増加が社会問題となっているが、学校から職業への「移行」(Transition)に関する研究からは、性別では女性が、また、学歴・家庭背景などが相対的に低い状況にある若者がフリーターになりやすいことが指摘されている。しかし、若者のフリーター「選択」に影響を与える要因についての量的な検討は多くはない。 本論文は、フリーター選択と近年着目されている社会的ネットワークとの関係に着目し、高校3年生を対象とした質問紙調査から、限定された社会的ネットワークがフリーター選択に影響を与えているかどうかについて検討を行った。その結果、高校生のネットワーク構造は「安定・ホワイトカラー」「不安定・ブルーカラー」ネットワークの2つに分類され、「安定・ホワイトカラー」ネットワークに組み込まれている高校生はフリーターを選択せず、逆に「不安定・ブルーカラー」ネットワークに組み込まれている高校生はフリーターを選択する傾向が見られた。高校生が組み込まれている社会的ネットワークの存在が、若者たちの進路分化に影響を与えていることが示唆されたのである。
著者
水落 正明
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.129-138, 2009-05-25 (Released:2010-01-08)
参考文献数
8
被引用文献数
1
著者
片岡 栄美
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.1-20, 1996-07-01 (Released:2016-08-26)
参考文献数
11
被引用文献数
2

本稿は、多様な文化活動に対する文化評価の根底にある認識図式の集団的・社会学的特徴を解明した。主な知見は、以下のとおりである。(1)文化活動の序列評価は異なる社会集団間で共通性が高いが、階層上の地位が高いほど文化弁別力は大きい。(2)社会階層と文化活動のヒエラルヒーは対応し、階層上の地位か高い集団は文化による差異化戦略を採用している。(3)文化評価の構造を検討すると、階層上の地位は文化評価に影響を与え、各階層成員は自らの所属集団の文化を高く、社会的距離のある階層の文化を低く評価することにより、自らが優位となるような評価分類図式を採用する。すなわち文化弁別力の階層差は、客観的な社会経済的な条件のなかから生み出される階級のハビトゥスとなった文化の知覚分類図式である。(4)世代間地位移動が文化評価に与える効果は男女で異なり、男性には文化同化仮説があてはまるが、女性は結婚による下降移動による影響は受けず、出身階層の文化評価パターンを相続する。
著者
盛山 和夫
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.71-86, 1986-11-20 (Released:2009-03-01)
参考文献数
17
被引用文献数
5

社会学の現状の“危機”は、その理論の欠如に由来しており、個別科学としての社会学の独立と安定のためには理論の創出という営為が不可欠である。社会学にはこれまで理論と言うよりも擬似理論の方が横行している。それらは例えば「視座」「概念図式や定義」「経験的一般化」「the more..., the more型言明」あるいは「パスモデルのような統計的モデル」などである。前二者は真偽性を欠いているし、後の三つは説明力に乏しい。 こうした背景には次のような方法的な誤りがある。(1)説明の持つ意義を否定して記述のみに満足する経験主義的バイアス、(2)小さな問題への理論的考察の価値を評価しない全体論的バイアス、(3)理論の正しさがそれ自体にではなくそれが生産される基盤の方にあると考える土台理論とそれと関連した方法的一元主義、(4)新しい知識がデータからのあるいは既存の言明からの積み上げによってえられるとする積み上げ主義。 我々の知識の拡大に貢献するような理論の創出にとって必要なのは、知的課題に対してさまざまな解を思い付く想像力とともに、それを自ら厳しく検討していく批判力である。

14 0 0 0 OA 中意識の意味

著者
盛山 和夫
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.2_51-2_71, 1990-11-01 (Released:2009-03-31)
参考文献数
14
被引用文献数
2

階層帰属意識は長い間研究者を魅了してきた「謎」であった。なぜかくも多くの人々が「中」と答えるのか。なぜ「中」の分布は1975年にかけて増大し、その後やや減少しているのか。それらについて「社会学者は、まだ明確な解答を出していないように思われる」(原,1986:247)。本稿は、求められている謎の解明の一つの試みである。それはまた、高度経済成長とそれにつづく低成長という戦後日本社会の歴史的体験の意味を読み解く作業でもある。
著者
数土 直紀
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.225-242, 2012 (Released:2013-08-12)
参考文献数
36

本論文の目的は,社会変動をつうじて地位が形成される過程を明らかにすることにある.本論文では,以下の条件が満足されるとき,ある個人属性は地位としてみなされるようになると仮定した: (1) その属性は個人の能力によって獲得されている,(2) その属性のばらつきが社会変動によって大きくなっている.この仮説を検証するために,本論文では婚姻状態に注目し,1985年SSM調査データ(N = 2,650) とSSP-I 2010データ(N = 1,502)をもちいて婚姻状態が階層帰属意識に及ぼす効果について分析をおこなった.分析結果は,結婚年齢に関するばらつきが相対的に大きい2010年では未婚であることが階層帰属意識に対してネガティブな効果をもっている一方で,結婚年齢に関するばらつきが相対的に小さい1985年では未婚であってもそれは階層帰属意識に対して何も効果をもっていないことを明らかにしている.しかしその一方で,分析結果は,未婚であることが階層帰属意識に対してもっている効果は社会階層間で異なっていることを明らかにしている.これらの事実は,本論文の仮説を限定的に支持するものといえるだろう.
著者
筒井 淳也 不破 麻紀子
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.2_139-2_149, 2008-11-30 (Released:2009-01-05)
参考文献数
8
被引用文献数
4

11 0 0 0 OA 編集後記

著者
太郎丸 博
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.105-108, 2007-04-30 (Released:2009-03-27)
著者
保田 時男
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.85-98, 2012 (Released:2013-03-18)
参考文献数
26
被引用文献数
2

本稿では,社会学者によるパネルデータの収集と管理に関して,日本の調査環境が直面するいくつかの方法論的な課題を提示し,その理想像について考察する.パネルデータの収集については,3つの論点を示した.第1に,パネル調査においても回顧法の視点が必要なことを主張した.第2に,カレンダー面接が正確な記憶の取り出しに役立つことを説明した.第3に,computer assisted interview(CAI)が多方面に有効性を発揮することを示した.次に,パネルデータの管理に関する2つの論点について議論した.第1に,データクリーニングの問題を取り上げ,Fellegi and Houtの原則に沿った手続きの重要性を主張した.第2に,分析者にとってユーザビリティの高いデータを構築することまでが,調査設計者の役割であることを訴えた.最後に,これらの論点の中で,CAIの導入がもっとも重要で,パネルデータの理想的な収集・管理を議論するための要石であることを訴えた.
著者
毛塚 和宏
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.337-354, 2013 (Released:2014-09-01)
参考文献数
17
被引用文献数
1

教育達成の階層間格差を説明する相対リスク回避仮説(Breen and Goldthorpe 1997)の検証は世界各国で行われたが,日本においてはおおむね否定的な結果が得られている.本稿では,日本における受験制度を考慮して,下降回避仮説の代替モデルとして,定員と自分の成績を参照して,進学するか否かを決定するという「単純進学モデル」を構築し,マクロ・ミクロの両面から下降回避仮説と比較・検討を行った.下降回避仮説としては,BreenとGoldthorpeの相対リスク回避モデルと,学歴に対する下降回避を考慮した二重回避モデルを想定した.マクロレベルでは,数理モデルを構築し,各モデルに基づいて大学進学率を導出した.これを経験的データと照らし合わせてモデルの妥当性を検討する.ミクロレベルでは,数理モデルから導出された個人の意思決定に関する命題に対して,JGSS-2000, 2001データを用いて検討を加えた.ミクロレベルの分析には,ロジスティック回帰モデルを用い,モデルを同定するために,一部の変数に対しプロビット変換を施した.結果,下降回避仮説を導入した2つのモデルは現実のデータに対する説明力を欠き,,単純進学モデルが最も妥当性が高いことが示された.特に,相対リスク回避モデルはマクロレベルの検討において棄却された.
著者
鈴木 鉄忠
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.49-61, 2006-04-30 (Released:2007-08-01)
参考文献数
36
被引用文献数
1

本稿の目的は、「共通利益と個別利害のジレンマ」の解決に「連帯集団」が及ぼす効果と社会的メカニズムを、マイクロ・レベルに基礎付けて解明することにある。利己的な行為者を仮定する社会理論では、ジレンマを解決する主要因として、「連帯集団」の存在がたびたび取り上げられてきた。しかしそれが行為者の意思決定状況や行動に及ぼす効果と社会的メカニズムについては十分な分析がなされていなかった。そこで本稿では、ジレンマが生じる問題状況を「n人チキンゲーム」によって定式化し、プレイヤー間の提携を考慮に入れた「強ナッシュ均衡」を用いて新たに分析した。分析の結果、「連帯集団」がコミュニケーション回路として機能することで行為者同士の共同行動が促されることによりジレンマが解決されるという、マイクロ-マクロ・レベルの社会的メカニズムが明らかになった。そしてこれは、「連帯集団」を通じた「集団まるごと加入」によって効率的な動員が可能になるという資源動員論の主張からも実証的に裏付けられることがわかった。
著者
武藤 正義
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.89-104, 2002-06-30 (Released:2009-02-10)
参考文献数
22
被引用文献数
7 13

本稿の目的は、集団において行為者がランダムに繰り返し相手を替えて1回限りの2人囚人のジレンマをプレイしている場合、行為者が僅かな利他性をもつならば、集団は、協力率が高く安定な状態になりうる、ということを示すことにある。分析の結果、相互協力から逸脱する誘因が小さい場合、利他性の平均が低いときでも、その分散を小さくしていくと、突然、協力率が高く安定な均衡が現れ、初発の協力率が高いという条件付だが、集団はその均衡に収束することがわかった。
著者
敷島 千鶴 安藤 寿康 山形 伸二 尾崎 幸謙 高橋 雄介 野中 浩一
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.2_105-2_126, 2008-11-30 (Released:2009-01-05)
参考文献数
45

観測された形質の分散を、「遺伝」「共有環境」「非共有環境」という3つの潜在変数の寄与に分割して推定させる行動遺伝学の方法論を用いて、権威主義的伝統主義の形成に関わる要因について検討した。4111名(12~26歳の男性双生児1279名、女性双生児1889名、および双生児の父親83名、母親860名)から権威主義的伝統主義尺度の回答を得た。一卵性双生児912組、二卵性双生児630組を対象とした双生児モデルによる分析は、権威主義的伝統主義の分散を遺伝33%、非共有環境67%で説明し、双生児親子モデルによる分析においても、結果は同等であった。これより、権威主義的伝統主義の家族内伝達を媒介するのは専ら遺伝であり、文化伝達ではないことが示された。権威主義の形成を親の養育、あるいはその家の社会背景によって説明するこれまでの理論には異議が唱えられる。遺伝を説明変数に含めた、より精緻な伝達モデルの有用性が提起される。
著者
石田 浩
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.2_41-2_63, 2008-11-30 (Released:2009-01-05)
参考文献数
25
被引用文献数
1

本研究は、世代間の階層継承の趨勢を生存分析の手法を用いて分析した。上層ホワイトカラー階層と非熟練ブルーカラー階層の再生産(世代間の継承)に焦点を当て、従来の分析のように調査年を趨勢の単位とするのではなく、初職入職年度、職歴の発生年度によって4つの時代を区分し、時代的なコンテクストをより明確にした分析を行った。上層ホワイト階層と非熟練ブルー階層への入職の仕方に関して、学校教育修了または中退後に初職からすぐに入職する場合と、職業キャリアの中で昇進・転職・起業などを経て入職する場合の2つを区別し、別々の分析を行った。 初職での上層ホワイト、非熟練ブルー階層への入職は、父と同じ階層であることが強く影響していることが分析から明らかになった。しかし、父階層の初職への効果は、4つの時代で有意に異なることはなかった。初職の時点ではなくて、職業キャリアを通して上層ホワイト、非熟練ブルー階層に入職した場合を取り上げると異なる結論が導きだされる。40歳時点までの職業キャリアを分析すると、上層ホワイト階層への入職と非熟練ブルー階層への入職の双方に関して、同じ出身階層であることの強い継承効果があることがわかる。さらに、父階層の効果は、1996-2005年にかけて上昇した可能性がある。すなわち、上層ホワイト階層と非熟練ブルー階層の閉鎖性(継承の度合い)が近年(1996-2005年度)高まっていることを示唆している。
著者
芹沢 浩 雨宮 隆 伊藤 公紀
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.405-420, 2011 (Released:2012-09-01)
参考文献数
15

エントロピーに関しては,その増減を支配する2つの重要な法則がある.外界から隔絶された閉鎖系で成り立つ熱力学の第2法則と物質やエネルギーが絶えず出入りする開放系で成り立つエントロピー生成率最大化(MEP)の原理である.前者はエントロピー増大の法則として以前よりよく知られているが,後者は近年の非平衡熱力学,複雑系研究の成果として得られた新たな知見で,社会科学の研究者の間で,その存在を知っている人はそれほど多くない.エントロピーについて深く理解するためには双方を熟知している必要があり,前者だけではエントロピーの破壊的な側面は理解できても,創造的な側面は見落とされてしまう.本論文はあまり知られていないMEP原理に焦点を当て,それを社会科学に移植する試みである.簡単な人間社会モデルによってMEP原理の基本的な考え方を説明した後に,社会現象においてもこれが機能すると仮定し,地球上に存在する社会形態の多様性とMEP原理の関連を考察する.
著者
内藤 準
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.15-35, 2015 (Released:2016-07-10)
参考文献数
23

本稿の目的は,ジェンダーによる就職時の統計的差別において予言の自己成就を生み出す単純な社会的メカニズムを理解することである.分析の結果,仕事と家庭が両立できず共稼ぎ世帯の方が片稼ぎ世帯よりも家族生活全体の利得が低くなる低ワーク・ライフ・バランス社会において,求人数が求職者数を下回っているとき,企業が「女性は男性よりも離職しやすい」という予測(予言)に基づいて男性優先の統計的差別をおこなうと,その差別的採用自体が,実際に女性が離職しやすい状況を作り出してしまうことが示される.次に,男女平等な採用が企業にもたらすメリットに関する先行研究の指摘をふまえたうえで,企業が差別的な採用から男女平等な採用へ切り替えることが合理的になる条件を明らかにする.その条件の解釈を通じて,ワーク・ライフ・バランスの改善,雇用拡大やワークシェアリング,ポジティブアクションの促進,労働の質の変化といった社会経済的・政策的要因が,統計的差別の予言の自己成就のサイクルを断ちきる効果をもつことを明快に理解することができる.