著者
布施 圭司
出版者
米子工業高等専門学校
雑誌
米子工業高等専門学校研究報告 (ISSN:02877899)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.54-61, 2003-12

ヤスパースは「非対象的思惟」ないし「超越的思惟」を哲学という営みの本質と規定している。非対象的思惟とは主観と客観を越えた非対象的なものを把握する思惟であり、主観に対向する対象的存在を把握する通常の思惟とは異なる働きである。ヤスパースは著作の随所で対象的思惟の限界を主張し、対象的思惟からの超越を説いている。対象的存在は、そのつどのパースペクティヴの制約の下にあり、一つの観点から固定化された存在であり、存在そのものではない。物事を明確化するには対象的思惟は欠かせず、非対象的思惟は対象的思惟を前提としつつ、それを乗り越えて行くことで遂行される。本論考では、まず哲学が非対象的思惟と規定される所以を明らかにし、その上でヤスパースの主要思想である「暗号論」が非対象的思惟として主張されていることを確認する。次にヤスパース以外に非対象的思惟を明確に主張している思想として、実存の信仰が論理的には逆説の性格を持つと主張したキェルケゴール、および西洋のロゴスとは異なる思惟である東洋思想におけるレンマを概観する。さらにこれらとヤスパースを比較して非対象的思惟の意義について考察する。

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