著者
濱田 年騏
出版者
島根大学
雑誌
島根大学農学部研究報告 (ISSN:0370940X)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.160-172, 1976-12-15

高度経済成長過程を通じ日本農業は多くの矛盾を露呈してきた.その構造的矛盾として,兼業の著しい進行による農業基幹的従事者の減少,経営組織の単純化からくる土地利用・地力の低下,あるいは農家経済の硬直化などがあげられる.13; 農業白書はこうした矛盾に対し,「複合経営は,単に所得・生産性の問題だけでなく,農業経営内部における就業及び所得の確保や経営内部の循環を利用した経営のバランス,土地利用の向上,地力の維持培養等のうえで重要な意味をもっている」と述べ,従来の専門化,大型化という農業近代化路線に対する反省的な発言をしている.13; 農業に生態系的な自然循環をとりもどし,バランスのとれた農業発展をはかろうとする近代化路線批判=複合経営論については,今日形態的にみると大きく二つの考え方が出されている.一つは,各農家がそれぞれ専門化をはかりつつも,地域内で生態系的バランスをとる地域複合化の方向であり,他の一つは,自己経営内で多様な作目を組合せることによりバランスをとる複合経営である.13; 有機物の土地還元による地力維持・培養については,この両者は同一的機能を果しうる可能性を秘めている.13;しかし,資本主義経済に対応する経営形態として大きな相異がみられる.前者は資本主義経済において,農業といえども商品生産を必然にし,生産力を高めるためには単一化・規模拡大は避けることができないとするのに対し,後者は日本の農業が家族小農によって担われている以上,その経営は自家労働力の再生産として営まれる.13;そのため,生産は自給的性格が強く,経営は複合化を志向する.それは地力維持・土地利用の高度化,家族労働力の完全燃焼といった点からも合理的であり,自己完結的にならざるをえないとするものである.13; 本稿における調査地岩手県紫波郡紫波町志和地区は,稲作地帯の農業展開の一事例として今日注目されている.そこにみられる「志和型複合経営」の経営形態は,稲作と畜産部門を基軸にキュウリ・椎茸・タバコ・ニンニクなどの商品作部門を組合せた,家族労働カによる自己完結的な後者にみられる複合経営である.13; 志和地区において,複合経営の展開が論理づけられた背景は,資本主義経済の発展による地区のもつ経済構造の変質・矛盾が具体化してくる過程から生じたものであった.従って「志和型複合経営」は,これら変質・矛盾を克服するなかに,小農の残りうる道として求めたものである.13; 本稿では,経営の複合化が土地利用・地力の低下あるいは農家経済の硬直化といった矛盾をいかに克服しうるものであるか,さらに経営構造を規定している諸条件のもとで,経営の複合化がもつ農業生産力発展のメカニズムを志和地区の実態をみつつ明らかにしようとするものである.従って,IIでは経営複合化の論理と実態を概観し,III・IVにおいて集落・農家の事例から「志和型複合経営」の具体的形態を明らかにするとともに,現在抱えている問題をみる.そしてVにおいて上記の点について答えようとするものである.

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