著者
吉田 正義 出島 富士夫
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.244-250, 1958

1) 圃場におけるハリガネムシの分布の実態を知らんがため,春(大麦畑)秋(白菜畑)の2期ハリガネムシが耕土上層に棲息する時期をねらって,作物を中心とした区劃および植物の根株を単位にハリガネムシを採集して,2年目以降の幼虫に対する個体群の分布様式について調査した。<br>2) 秋期および春期における区劃ならびに根株単位の分布様式はいずれもP&oacute;lya Eggenberger分布に適合した。根株単位の頻度分布は区劃単位のそれに比して&chi;<sup>2</sup>検定は高い信頼度で適合した。<br>3) 白菜の根部以外の区劃内に棲息するハリガネムシの数は,根部の土壌に棲息するそれに比較してきわめて少ないので,密度を推定するには1区劃全部の土壌を調査する方法より植物の根部の土壤のみを対象とするほうが得策かも知れない。<br>4) ハリガネムシの分布が栽培植物に対して高い集中性を示したが,その理由としてa)成虫の産卵は栽培植物の周辺の土壤にばらばらに行われることb)摂食期の幼虫は栽培植物に好んで潜入する性質をもつことc)非摂食期においても栽培植物の真下に当る耕土の下部に潜入していることが考えられる。<br>5) 集中性をはばむ事柄として,マルクビクシコメツキの幼虫のように経過の長い昆虫では,栽培植物に集中したものを耕転により分散させることが考えられるが,春期の甘藷の畝立作業や秋期の麦作は2年目以降のハリガネムシが耕土の下層に潜入した後に当るため大きな影響は考えられない。<br>6) 大麦畑における頻度分布もおおむね白菜畑におけると同様な傾向を示した。<br>7) 調査圃場はいずれも西側が高く東側に低いゆるやかな傾斜地であったが,分布は何れも低い場所に多く認められた。これは成虫が風の当らない日だまりの低地に集中産卵を行うことによるものであろう。<br>8) 棲息密度の増加と集中性について,<i>S<sup>2</sup>/x</i>により比較すれば,各区とも1より大きく,密度が高くなるにつれて高い集中性がみられ,各区ともP&oacute;lya Eggenberger分布に当てはまった。<br>9) 白菜の被害程度の異なる株を任意に選び根部に棲息するハリガネムシの数を調査した。採集虫数は枯死葉と健全葉の混合株区に最も多く,次は枯死株区,健全株区,欠株区の順であった。<br>10) アリの巣やモグラの孔のある場所ではハリガネムシは比較的少なく採集された。また圃場はコガネムシ類の多数棲息する場所であるが,ハリガネムシの密度の多い場所では,コガネムシの幼虫はほとんど採集できず圃場の周辺にのみ少しずつしか採集されなかった。<br>11) 圃場に栽培されている植物が少ない場合はハリガネムシもコガネムシの幼虫も根部に集中するが,ハリガネムシは肉食性でもあるのでコガネムシの体内に潜入して同虫を倒すためであろう。<br>12) このことはハリガネムシを採集する時,しばしば1頭のコガネムシの幼虫に10数頭のハリガネムシが集中して潜入しているのを観察したり,同じ容器でヒメコガネの幼虫とハリガネムシを混合して飼育する時,コガネムシ幼虫の体内に多数のハリガネムシが潜入することなどにより容易に推察される。

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