- 著者
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宿谷 昌則
- 出版者
- 一般社団法人照明学会
- 雑誌
- 照明学会誌 (ISSN:00192341)
- 巻号頁・発行日
- vol.87, no.9, pp.720-724, 2003-09-01
私たち人間社会が地球環境問題に直面していると言われるようになって10年以上が経った.地球大気中の二酸化炭素濃度が上昇し続けていて,そのために,地表付近の平均温度がどうも上昇しているらしい……そういうことが言われ出したのは筆者の記憶では1989年ごろである.それを受けて,例えば1992年にはリオデジャネイロで地球環境サミットと呼ばれる会議が行われたり,1997年には,二酸化炭素排出の問題を巡ってCOP3と呼ばれる会議が京都で行われたりした.それらの一方で,例えば1990年ごろには湾岸戦争が,また,つい5ヵ月前にはイラク戦争があって,まさに資源の浪費があった.本来なら排出しなくて済むはずの二酸化炭素が大量に排出され撒き散らされた.劣化ウランなども撒き散らされたらしい.環境破壊は甚だしい.以上のような背景で,私たち人間が生活する場--建築や都市環境空間--の照明がどのようにして成り立っているかを考える……何だか呑気な感じがしないでもない.しかし,本特集号の主題にある'地球環境'のような大きな問題を議論する場合にこそ,誰にとっても関わりある身近な題材から出発して考えを巡らすことが大切だろう.等身大の事柄から出発して考えを展開していくことは,いわゆる地球環境問題や,戦争を含むさまざまな環境破壊を起こさせないための微小ではあるが確実な(倫)理性を私たちの一人ひとりが持つことに,結局のところ最も役立つに違いないと思うのだ.そう考えることにして,人なら誰にとっても身近な照明について踏み込んで考察し,地球という自然の成り立ちに思いを致し,ヒト(人)という自然が持つ原理に倣った照明のあり方を想像してみたい.