著者
シュバイカ マーセル 宿谷 昌則
出版者
一般社団法人日本建築学会
雑誌
日本建築学会環境系論文集 (ISSN:13480685)
巻号頁・発行日
vol.73, no.633, pp.1275-1282, 2008-11-30
参考文献数
19
被引用文献数
1

1.はじめに建物外皮や暖冷房設備のようなハードウェアだけではなく、住まい手の行動のようなソフトウェアも、建築環境システムのエクセルギー消費に大きな影響を及ぼす。エクセルギーはシステム内外で起きる消費を明示する概念である。ハードウェアについては多くの研究があるが、ソフトウェアについては研究事例がまだ少ない。これらの事例では、放射温度・気温・湿度の他に住まい手にかかわる情報として快適さの度合いや着衣・代謝・体重などが調査されている。実際には、室内熱環境の快適条件を達成するための行動の選択が住まい手にはある。例えば、冷房のスイッチを入れるか、あるいは通風のために窓を開けるのかは、建築環境システムのエクセルギー消費パターンに大きな影響を及ぼす。そこで、本研究では、住まい手の選択に影響を及ぼす要因を見い出すことを試みた。行動選択の要因が明らかになれば、快適さを犠牲にせず、しかも小さなエクセルギー消費ですごせるように住まい手を導くことができると考えられる。2.熱環境の測定方法と調査対象者のプロフィル本研究における熱環境物理量の測定と熱環境調整行動の調査は、2007年夏に東京都内にある320部屋をもつ国際留学生会館で行なった。各部屋の床面積は15m^2で、通路側にドアが一つそして反対側に窓が一つある。各部屋には冷暖房装置が一台ずつ設置されている。今回の測定と調査に加わることを同意した39人の学生の出身は27ヶ国に及び、彼らは3か月から20か月前に日本に来ている。最初に、現在の行動とその背景・好み・知識について英語で書かれた35の質問から成る質問紙調査を行なった。次に、温湿度センサー1台と窓の開閉が記録できるセンサー1台を受け取ることに同意した学生に対して、部屋を快適に保つための夏における行動についてのインタビューを行なった。さらに、この39人の居住する部屋内の温湿度データを6月末から8,月上旬まで6週間にわたって2分間隔で記録収集し、屋外の温湿度・風速・日射量も同様にして測定した。図2に、測定期間における外気温と学生室の室内空気温を示す。Nicolらが示した適応的快適さ範囲も描き込んでみたところ、たとえば、学生Aは適応的快適さ範囲に室内空気温が入っていてもいなくても、冷房を使用せず、学生Bは頻繁に使用していることが分かった。表1は、各階や各方位によって室内温湿度の平均・最高・最低\分散を示す。室内の温度は平均値で、室外より5℃程度高かった。3.エアコン冷房の使用パターンエアコン冷房の使用パターンを明らかにするために、まず最初に各学生が冷房をいつつけるか、そしてどのぐらいの間つけ続けるかを分析した。Nicolが示した方法にしたがって、外気温と関係づけて冷房の使用パターンを分析することにした。図3は、冷房システムをつけている人々の割合と外気温の関係、図4は、冷房システムをつけている時間割合と外気温の関係を示す。これらの関係を、1日24時間、0:00〜8:00、8:00〜18:00、18:00〜0:00の4っの時間帯ごとにロジット曲線で表したところ、その時間帯の平均外気温が27℃で75%の人たちが60%の時間割合で冷房を使用していることが分かった。寮という建物用途から、0時〜8時の時間帯における人数割合と使用時間割合が8時〜18時や18時〜0時の時間帯より大きいことが分かった。図5に示す通り、個々の学生についてロジット曲線を求めると、大きな相違が現れる。これらの相違が何に起因しているのかを見い出すために、学生を四つのグループN・E・L・Aに分類して考察した。Nは暑くても決して冷房を使用せず、暑すぎるようなら、場所を移動するような行動パターンの人たち。Eは、扇風機などでは効果がないときだけ冷房を使用する人たち。Lは、冷房を使用したくないが、他の策を試みる前にそれを使用する人たち。Aは、冷房が必要ではないような条件でも冷房をつける人たちである。図6には、グループN・E・L・Aのロジット曲線はグループ毎の特徴をある程度を表す。例えば、Aは同じ外気温度に対してL・E・Nに比べて冷房を使用する可能性が40%〜60%大きいことが分かる。4.エアコン冷房の使用パターンを決定する要因の考察3.の結果に基づいて、質問紙調査から得られた答えがグループN・E・L・Aの行動パターンにどのように関連しているかを分析した。要因として6つを取り上げた。夜間のエアコン冷房の好き嫌い、エアコン冷房の効果、窓開けの効果、窓閉めの効果、出身地の気候、環境調整のパッシブ手法、性別の7つである。これらの要因ごとに統計的検定を行なって、取り上げた要因が有意かどうかを調べた。図7-aを見ると、エアコン冷房の好き嫌いは、冷房を頻繁につけるかどうかに重要な影響があること、図7-bからdを見ると、LとAは、冷房によって得られる快適さを十分に信頼しており、窓開けのような行為をあまり信頼していないこと、その一方で、NとEは、その反対を信頼していることが分かる。このような結果となったのは、冷房を使用している人は窓開けによる通風の経験がほとんどないからかもしれない。気候については、Koeppenの気候地図17)にしたがって学生を分類した。図7-eにより、暑熱湿潤気候で育った学生は、実測期間中に現われた条件になじみがあり、その多くがグループAに属していることがわかった。その理由は、出身地においてエアコン冷房が一般によく使用されているからと思われる。熱く乾燥した国から来ている学生は、グループNとEに属していることが多かった。それらの国では伝統的な生活様式がかなり残っており、そのことが大きく影響した可能性が高い。寒冷な気候で育った学生はグループLに入っていることが多かった。彼らは実測期間に現われた暑熱湿潤の環境条件に適応するようなパッシブ手法による環境調整の方法を学ぶことがなかったため、エアコン冷房をつけるのが一番簡単な方法とみなしてすぐに使用することにしたのかもしれない。図7-fに示すように、蒸発冷却・自然換気・日よけのようなパッシブ方法の知識と実際の行動とには関連性は見ることができなかった。図7-gにより、性による行動の違いがない。5.まとめ東京における夏の条件で、ある留学生会館に住む40人ほどの学生を対象にして、居室内の熱環境測定と環境調整行動の質問紙調査を行ない、その結果を分析したところ、ロジット曲線のモデルが冷房使用パターンの記述に利用できそうなことが分かった。エアコン冷房の使用パターンに影響すると考えられる要因を7つ取り上げ分析したところ、エアコン冷房の好みや出身地の気候、出身地におけるエアコン冷房の普及の程度などでがエアコン冷房の使用パターンに強く影響するらしいことが読み取れた。今後の課題は建築環境調整のためのエクセルギー消費を減らすために住まい手の行動を変えることは可能であるかどうかを調査することである。
著者
齊藤 雅也 辻原 万規彦 羽山 広文 宿谷 昌則
出版者
札幌市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

札幌・東京・熊本の小学校教室で夏と冬に温熱的不快に達する閾値温度を解明する実測調査を行ない、ロジスティック解析により以下のことがわかった。1)夏に「暑くて授業に集中できない」児童が過半数(60%)になる外気温は札幌で30.5℃、熊本で32.5℃、実際室温は札幌で29℃、熊本で35.5℃だった。その時の児童の想像温度は札幌で27.5℃、熊本で32.5℃で、教室にエアコンが設置されている東京では外気温が28.5℃のときだった。2)冬に「寒くて授業に集中できない」児童が40%のときの児童の想像温度は、札幌:9℃、東京:7℃、熊本:2℃だった。以上から、児童の夏と冬の閾値温度には地域差があった。
著者
宿谷 昌則
出版者
一般社団法人照明学会
雑誌
照明学会誌 (ISSN:00192341)
巻号頁・発行日
vol.87, no.9, pp.720-724, 2003-09-01

私たち人間社会が地球環境問題に直面していると言われるようになって10年以上が経った.地球大気中の二酸化炭素濃度が上昇し続けていて,そのために,地表付近の平均温度がどうも上昇しているらしい……そういうことが言われ出したのは筆者の記憶では1989年ごろである.それを受けて,例えば1992年にはリオデジャネイロで地球環境サミットと呼ばれる会議が行われたり,1997年には,二酸化炭素排出の問題を巡ってCOP3と呼ばれる会議が京都で行われたりした.それらの一方で,例えば1990年ごろには湾岸戦争が,また,つい5ヵ月前にはイラク戦争があって,まさに資源の浪費があった.本来なら排出しなくて済むはずの二酸化炭素が大量に排出され撒き散らされた.劣化ウランなども撒き散らされたらしい.環境破壊は甚だしい.以上のような背景で,私たち人間が生活する場--建築や都市環境空間--の照明がどのようにして成り立っているかを考える……何だか呑気な感じがしないでもない.しかし,本特集号の主題にある'地球環境'のような大きな問題を議論する場合にこそ,誰にとっても関わりある身近な題材から出発して考えを巡らすことが大切だろう.等身大の事柄から出発して考えを展開していくことは,いわゆる地球環境問題や,戦争を含むさまざまな環境破壊を起こさせないための微小ではあるが確実な(倫)理性を私たちの一人ひとりが持つことに,結局のところ最も役立つに違いないと思うのだ.そう考えることにして,人なら誰にとっても身近な照明について踏み込んで考察し,地球という自然の成り立ちに思いを致し,ヒト(人)という自然が持つ原理に倣った照明のあり方を想像してみたい.
著者
高橋 達 宿谷 昌則
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.61, no.482, pp.43-50, 1996-04-30 (Released:2017-01-28)
参考文献数
21
被引用文献数
1 2

We developed a method to calculate entropy values associated with mutual diffusion of substances and to articulate an exergy-entropy process of human body in terms of water and other inorganic substances. The purpose is to have a better understanding of the consumption process of freshwater resource of human body. It was found that human body consumes 95% of the supplied exergy of inorganic matter and disposes of the rest, namely 5%, with urine. The amount of water, 1.0〜1.6kg/day, which is required by human body, was confirmed to be optimum for maintaining actively the state of exergy in terms of inorganic matters in human body, while consuming the least exergy of freshwater. The disposal of entropy generated within human body by urination makes room for consuming exergy contained by freshwater.
著者
近藤 靖史 小笠原 岳 宿谷 昌則
出版者
公益社団法人 空気調和・衛生工学会
雑誌
空気調和・衛生工学会 論文集 (ISSN:0385275X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.127, pp.25-30, 2007-10-05 (Released:2017-09-05)
参考文献数
5
被引用文献数
2

タバコ煙は室内空気の汚染質の一つであり、健康への影響が広く認められている。近年、室内での非喫煙者が喫煙者のタバコ煙を吸引する受動喫煙は社会的に大きな問題となっている。このような背景のもと公布された健康増進法では、受動喫煙の防止に関して努力義務規定が明文化され、建築内においてタバコ煙に関する分煙が進められている。本研究では空間分煙に着目し、滞在時間が比較的長く、未成年者も利用すると考えられる飲食店舗を対象とした実態調査を行った。次に実態調査の結果に基づいて効率的な分煙方法を数種類想定し、CFD解析により検討した。
著者
伊藤 義隆 中川 政一 宇多 寛人 廣澤 博嗣 岩松 俊哉 宿谷 昌則 織茂 宏彰 椎崎 真弘
出版者
一般社団法人日本建築学会
雑誌
学術講演梗概集. D-2, 環境工学II, 熱, 湿気, 温熱感, 自然エネルギー, 気流・換気・排煙, 数値流体, 空気清浄, 暖冷房・空調, 熱源設備, 設備応用 (ISSN:1341450X)
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.557-558, 2010-07-20

本報では、その2.で熱環境実測を行なった東急東横線渋谷駅と副都心線車両内で行なった被験者実験について、電車で移動するという一連の行動の中で人が温熱感をどのように知覚するかに着目して考察を行なった。
著者
宿谷 昌則
出版者
武蔵工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究では、通風によって得られる「涼しさ」や昼光照明によって得られる「ほどよい明るさ」は、環境の物理要素がどのような変動をするときに得られるのかを被験者実験によって明らかにするとともに、人体エクセルギー収支と温冷感との対応関係を明らかにして、自然共生建築を計画するための基礎的な知見を得ることができた。以下に明らかになった内容を要約して示す。●設定温度25℃の冷房室では、空気温の変動が大きいにもかかわらず、温冷感申告の経時変化がほとんどなく、冷房室における温冷感の特徴は定常的で画一的であるのに対して、通風室では「汗をふく」などの行動が見られ、被験者の暑さへの対処方法は多様である。●「涼しさ」が得られるときの気流の振幅は、「涼しさ」が得られないときの2倍以上あり、気流の波形は、急激な上昇に引き続くゆっくりとした下降である。●ふだん昼光照明を行なうほとんどの被験者は、昼光照明を行なっている部屋で「ほどよく明るい」を申告し、窓から入ってくる光や屋外の様子から時間を把握していて、昼光照明のみの部屋では、申告した時間と実際の経過時間との差は最も小さい。●事務作業程度を行なっている人体が暑くも寒くもないような中立的な環境に置かれている場合、人体エクセルギー消費速度が最小になる。
著者
西川 竜二 宿谷 昌則
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.63, no.504, pp.39-46, 1998
被引用文献数
1 1

This paper describes a method to calculate "natural exergies" associated with solar radiation, effective radiation, evaporation of water and underground warm and cool storage. We first examined the variable types of so-called natural energy, which is a technical term widely used in the field of building environmental science, and then showed that they can be defined by the concept of exergy. We call this "natural exergy". The values of any natural exergies are positive. For example, stored exergy under the ground as a quantity of state is positive without exception. We calculated the annual amounts of natural exergies in Tokyo, and we tabulated the results as a chart that can be used to evaluate the regional climatic situation from the view point of exergy.
著者
斉藤 雅也 高橋 達 宿谷 昌則
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.63, no.505, pp.51-58, 1998
被引用文献数
2 7

This paper describes a method to calculate exergy and entropy balances of a leaf with an emphasis on photosynthesis and secretion. The purpose of investigating such balances is to have a better understanding of the exergy-entropy process of a leaf, which is a fundamental member of trees as a shading device with evaporative cooling capability for passive cooling of a building, together with the exergy-entropy process of various building environmental control systems such as lighting, cooling, and heating systems. We have derived the exergy balance equations for a leaf, taking into consideration not only the dispersion of energy due to the absorption of solar radiation and heat transfer, but also the dispersion of carbon dioxides, water vapor, and oxygen. Example calculation showed the following: exergy consumption within the leaf is 94% of the supplied exergy, which is the sum of the exergies of solar radiation, effective sky longwave radiation, and water; a half of the rest, namely 3%, is stored within the glucose, and the other is discharged with water vapor into the environment of the leaf and then consumed totally until the water vapor reaches the environment.
著者
高橋 達 宿谷 昌則
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.61, no.482, pp.43-50, 1996
被引用文献数
1 2

We developed a method to calculate entropy values associated with mutual diffusion of substances and to articulate an exergy-entropy process of human body in terms of water and other inorganic substances. The purpose is to have a better understanding of the consumption process of freshwater resource of human body. It was found that human body consumes 95% of the supplied exergy of inorganic matter and disposes of the rest, namely 5%, with urine. The amount of water, 1.0〜1.6kg/day, which is required by human body, was confirmed to be optimum for maintaining actively the state of exergy in terms of inorganic matters in human body, while consuming the least exergy of freshwater. The disposal of entropy generated within human body by urination makes room for consuming exergy contained by freshwater.
著者
石川 幸雄 宿谷 昌則 田澤 真人 垣内田 洋 宮田 弘樹 北野 博亮 安藤 邦明 菊池 卓郎
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

人体・生物が持つ環境生理機能を建築に模擬応用する「バイオミメティック(生物模擬)建築」を実現するために必要となる要素技術、複合技術、評価法を構築し、その環境・エネルギー性能を評価した。ここでは、有望機能である「発汗機能」、「植物導管揚水機能」、「衣替え機能」の他、「自律調光窓」、「日射制御外壁」を建築要素技術として構築し、実験と解析に基づき性能を確認評価するとともに、人体エクセルギー消費の考え方に基づく室内環境評価結果を示した。