著者
田原 昭彦
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.33-43, 2000-03-01

血液透析は腎不全患者に多大な恩恵をもたらしているが, 一方では副作用が問題となっている.眼科領域では透析中に眼圧が上昇する症例があることが知られており, 血液透析が眼圧に及ぼす影響が論議されている.慢性腎不全で血液透析を受けている患者の透析中の眼圧, 血漿浸透圧, 血漿二酸化炭素分圧の変化を経時的に調べると, 血漿浸透圧は透析開始後徐々に低下する.眼圧は, 房水流出障害がない眼と房水流出障害がある眼とでは異なった変動を示す.房水流出障害がない眼では透析開始後眼圧に顕著な変化はないが, 房水流出障害がある眼では眼圧は徐々に上昇する.この時, 血漿浸透圧の変化率と眼圧の変化率との間には負の相関関係がある.房水流出障害があって血液透析中に眼圧が上昇する例に, 高浸透圧薬の点滴あるいは高ナトリウム透析を行って透析中の血漿浸透圧の低下を抑制すると眼圧は上昇しない.したがって, 血液透析中に眼圧は次のような機序で変動すると考えられる.通常の血液透析では血漿浸透圧は低下する.この時, 眼組織の浸透圧は, 血液眼関門が存在するため血漿浸透圧に遅れて低下する.その結果, 血液中から水分が眼内に流入するが, 房水流出障害がなければ房水が代償性に前房隅角から流出して眼圧は上昇しない.しかし, 房水流出障害が存在すれば, 房水流出による眼圧の調節ができず眼圧は上昇する.

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