著者
武田 安弘
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.g105-g106, 1990

顔面に分布する主要動脈の1つである顔面動脈の走行と分枝の発達は動物種によって異なっている. 霊長類の顔面動脈については, ヒトを除いては極めて少数の報告をみるにすぎない. 著者はコモンマーモセット (Callithrix jacchus) の顔面動脈と分枝ならびに分布域について詳細に観察し, 霊長類のものと比較解剖学的に考察した. 本研究には, コモンマーモセット成体7頭を用い, アクリル樹脂脈管注入法によって両側総頚動脈からアクリル樹脂を注入し, うち6体は頭頚部血管系の鋳型標本, 残る1体は10%ホルマリン固定剖検標本として観察に供した. 顔面動脈は起始から顔面での分布まで長い走行をとるので, これを顎下部と顔面部にわけて観察した. 1) 顎下部 : 顔面動脈は環椎中央の高さ, 顎二腹筋後腹ならびに茎突舌筋筋腹中央, かつ舌下神経の内側で外頚動脈の前壁から舌顔面動脈幹 (全観察7体, 14側中10側) または単独 (4側) で起始していた. この動脈幹からは常に上甲状腺動脈が起始していた. 舌顔面動脈幹または単独起始の顔面動脈は顎二腹筋後腹の内側を前上方へ, 同幹は本筋上縁で舌動脈と顔面動脈に2分していた. 顔面動脈は茎突舌筋と顎二腹筋中間腱の間を前外側方へ通過し, 途中, 茎突舌筋枝と顎下腺枝を派出していた. 本幹は内側翼突筋と顎二腹筋中間腱の間を前下方へつづき, 同翼突筋停止前縁でオトガイ下動脈を前上方へ, 咬筋枝を前下外側方へ派出していた. さらに本幹は皮下にでて咬筋と顎二腹筋前腹の間を前走し, 咬筋停止と顎二腹筋停止の後縁の間で前上外側方へ曲がって顔面に出ていた. オトガイ下動脈は内側翼突筋枝, 皮枝, 舌下腺枝, 顎二腹筋枝と顎舌骨筋枝を派出しつつ下顎骨内面を正中まで前走し, オトガイ舌筋の起始に分布して終わっていた. 2) 顔面部 : 顔面動脈本幹は6体の両側では咬筋前縁に接して前上方へ向かっていた. 残る1体の両側では同縁から前方へ離れて走行し, その片側では咬筋前枝の派出を認めた. 本幹は下顎体中央の高さで皮枝, 下顎縁枝, 頬枝を派出し, 頬筋下顎起始の下縁で下唇動脈を前方へ派出したのち, 頬筋外面を上行して頬筋枝を後内側方へ派出していた. さらに本幹は頬骨側頭突起の基部下縁の高さで頬骨動脈との吻合枝を派出したのち, 前方へ曲がり鼻孔外側動脈と上唇動脈に2分して終わっていた. 2体の両側では鼻孔外側動脈を欠如していて上唇動脈が終枝となり, また眼窩下動脈が発達していた. 下唇動脈は下顎縁枝, 唇縁枝, 下唇腺枝を派出し, オトガイ動脈と吻合して終わっていた. 上唇動脈は浅枝と深枝となり, 対側相互間で吻合して鼻中隔枝となっていた. コモンマーモセットの顔面動脈の起始は甲状舌顔面動脈幹が全観察例の2/3に, 単独起始が1/3に認められた. 起始様相について霊長類のツパイからヒトまでを総括すると, 単独起始, 甲状舌顔面動脈幹形成という順に変化し, 高等霊長類ではこのような起始変化が種別に独自の出現率を示している. 顔面動脈顎下部の形態については他種についての所見と変わらない. 顔面動脈は咬筋前縁に接して走行しており, これは頬嚢を有するカニクイザルやアカゲザルと異なっていた. 顔面動脈の終枝は鼻孔外側動脈と上唇動脈であって, カニクイザルやアカゲザルにみられる眼角動脈は認められなかった. したがって, 顔面動脈の分布は鼻背にとどまっていた.

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こんな論文どうですか? コモンマーモセットの顔面動脈 (大阪歯科大学大学院歯学研究科博士論文内容要旨および論文審査結果要旨)(武田 安弘),1990 https://t.co/ioCdmVSVJo

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