著者
貴島 真佐子
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.153-168, 1998
参考文献数
49
被引用文献数
1

理学療法は, 筋や関節における機能障害の回復ならびに疼痛緩和に用いられる. 近年, 顎機能異常患者に対する理学療法, なかでも超音波治療は, 深部加熱効果を期待して障害を受けた咀嚼筋に応用されてきた. ところが, これまで明確な超音波照射条件は示されていない. 本研究では, 健常有歯顎者について, まず従来の照射条件(2.0, 1.5, 1.0W/cm<sup>2</sup>), 超音波診断装置による皮下(咬筋, 下顎枝)組織の横断面の計測について検討した. 次に無侵襲的な深部体温計測法を咬筋に応用し, 照射による咬筋深部温変化の再現性, 照射強度ならびに照射時間が咬筋深部温に及ぼす影響について検討した. 照射条件は, 照射強度を0.5, 0.75, 1.0W/cm<sup>2</sup>, 照射時間を5, 10分間の合計6条件で周波数3MHz, 連続波, ストローク法で照射した. さらに痛みに関するアンケートは, 5段階のLikert型スケールを応用し, 照射中, 後に採取した. 安静時熱平衡状態, 照射終了20分後, 60分後の3時点の測定温からΔT, 上昇率ならびに減衰率を求めた. そして得られた結果に基づいた照射条件である0.5W/cm<sup>2</sup>の10分間を顎機能異常患者に応用した. その結果, 1) 1.5W/cm^2以上の照射強度は痛みのため2分以上の照射は不可能であり, 咬筋には高い照射強度であることがわかった. 2) 咬筋表層は皮下3.3〜5.9mmに位置することから, 3MHzの照射ならびに深部温プローブの測定が可能であった. 3) 級内相関係数は0.75以上を示し, 照射による咬筋深部温変化の再現性が良好であった. 4) ΔTならびに上昇率は, 照射時間が長いほど高くなり, 減衰率は, 照射強度が高いほど高くなった. 5) 痛みに関するアンケート評価において, 1.0W/cm<sup>2</sup>では比較的早期に痛みを誘発するため, 咬筋に応用するには不適切であった. 6) 顎機能異常患者への超音波照射により咬筋の違和感・だるさと触診による圧痛は, 照射後60分後では軽減し, VASからも改善が認められた. 以上のことから, 超音波照射の至適条件は, 照射プローブの特性により機種ごとに異なる. しかし, 咬筋への超音波照剣による深部温計測と痛みに関するLikert型スケールの結果から, その至適条件がわかった.

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