- 著者
-
井上 博
- 出版者
- 大阪歯科学会
- 雑誌
- 歯科医学 (ISSN:00306150)
- 巻号頁・発行日
- vol.63, no.2, pp.62-63, 2000-06-25
歯周炎などの炎症歯周組織には, リンパ球をはじめとする免疫担当細胞の浸潤が認められることにより, 局所的免疫反応が歯周疾患発症の要因であると考えられる.NK細胞は, CD16を介した抗体依存性細胞傷害活性を発揮し, また, IL-2刺激に応じて活性化や増殖を行うことにより, 炎症病変の形成と進展に関与していると考えられる.NK細胞による標的細胞の認識は, 非自己認識(標的細胞)による活性化シグナルと, 自己認識による抑制性シグナルとの微妙なバランスのよって決定されていると考えられる.したがって, 両者の調節機構を明らかにするためには, NK細胞上の各レセプターのシグナル伝達経路を明らかにする必要がある.今回私は, NK細胞活性化におけるCD2とIL-2を介したシグナル伝達経路を解析し, 両刺激による細胞増殖への協調効果との関連について検討した.実験材料および方法 1)ヒトIL-2依存性NK様細胞株, NK3.3細胞を2nMのリコンビナントIL-2添加RPMI1640培地で継代培養した.2)NK細胞を各種抗体を固相化したプレートに播種し, IL-2存在下に37℃, 5%CO_2条件下で72時間培養した.細胞増殖能は, WST-1溶液(20μL / well)をプレートに加え37C, 5%CO_2下で3時間呈色反応させ, プレートリーダーを用いて波長405nm(対照波長:630nm)で測定した.3)NK細胞を各種抗体で処理後, polystyrene beadsに固相化した二次抗体を用いて, IL-2の存在下あるいは非存在下で架橋刺激後, 細胞溶解液で可溶化した.抗Syk, 抗Shc, 抗Cbl, 抗Grb2抗体でそれぞれ免疫沈降を行い, SDS-PAGEによる電気泳動後, ナイロン膜上に転写した.ナイロン膜を抗チロシンリン酸化抗体で処理し, ECLシステムを用いてレントゲンフィルムに感光させチロシンリン酸化バンドを検出した.4)前述の様に細胞刺激後可溶化し, GST-Grb2 fusionタンパクを加え4℃で2時間反応させ細胞溶解液上清中のGrb2とGST-Grb2 fusionタンパクとを結合させたのち, 抗GST抗体で免疫沈降した後, 前述の方法でチロシンリン酸化バンドを検出した.結果および考察 1)NK細胞の増殖活性は, 固相化抗CD2抗体による架橋刺激とIL-2との協調刺激により, IL-2単独時に比べ有意に増加した.2)CD2架橋刺激によりSykの強いチロシンリン酸化が誘導されたが, IL-2やIL-12刺激では認められなかった.3)Shcのチロシンリン酸化はCD2架橋刺激およびIL-2両者により誘導されたが, Cblのチロシンリン酸化はおもにCD2架橋刺激により増強した.4)CblとGrb2との結合は, 刺激の如何に関らずGrb2のN末端側SH3ドメインを介して認められた.一方, ShcとGrb2との結合はGrb2のSH2ドメインを介して起こっており, CD2架橋刺激およびIL-2依存性に認められた.IL-2とCD2の協調効果により, NK細胞の増殖活性が亢進した機序は, 1)IL-2刺激によるLckの活性化とCD2刺激によるSykの活性化が協調してShcのチロシンリン酸化を増強し, Grb2との結合を介してRasを活性化した可能性, 2)IL-2によるShc-Grb2のシグナル経路とCD2によるCbl-Grb2のシグナル経路とが協調し, Rasを活性化した可能性が考えられる.これらのシグナル伝達機構やその相互作用についてはまだ不明な点が多く, 今後さらに分子レベルでの解析が進められ歯周病の発症機構が解明されることにより, 有効な治療法の開発に至るものと考える.