- 著者
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桑形 恒男
- 出版者
- 社団法人日本気象学会
- 雑誌
- Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
- 巻号頁・発行日
- vol.75, no.2, pp.513-527, 1997-04-25
- 被引用文献数
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2
1985年夏季の晴天条件下に中部日本域で発生した短時間降雨を, ルーチン気象観測データを用いて統計的に解析した. 解析期間の中部日本域における降水量は夕方の18時ぐらいに顕著なピークを持ち, 0時から12時までの深夜から午前中にかけての時間帯にはほとんど降水がなかった. 夕方の顕著な降水ピークは, 午後になって発生する驟雨性の短時間降雨に対応したものである. 日々のデータについて見ると, このような降雨は可降水量40mm以上の気象条件下で発生しやすくなり, その活動度は乾燥(または湿潤)対流に対する大気安定度の減少にともなって増加していた. 短時間降雨の降雨域は内陸の山岳地帯に集中しており, 降雨頻度が高い地域の時間による移動はあまり大きくなかった. ただし降雨域の山岳への集中の程度は, 短時間降雨の活動が活発な日ほど小さくなる傾向があった. 一方, 中部日本域では春季から夏季にかけての一般風が弱い晴天日の日中に, 連日のように熱的な局地循環が発達する. 熱的局地循環は地形の影響を強く受けており, 内陸の山岳が局地循環の顕著な収束域となっていた. 以前に実施された研究によって, 熱的局地循環が平野および盆地(盆地底)から山岳に水蒸気を輸送する働きを持つことと, 中部日本域のような1OO km程度の水平スケールを持つ地形で, 夕方における山岳上での水蒸気の蓄積が最大となることが明らかになっている. すなわち内陸の山岳では水蒸気の蓄積によって午後になると積雲が生成しやすくなり, 今回の地上気象データの解析からも, 午後の山岳域における水蒸気量の増加と日照率の低下が認められた. 実際の短時間降雨にともなった降雨域もこのような山岳域に集中しいることから, 熱的局地循環の発達が夏季の中部日本における対流性降雨の発生のトリガーとなっている可能性が本解析により示唆されたといえる.