著者
SUZUKI Tokio
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.73-79, 1963-04-01

日本における花粉学的研究は, 1930年ころ, 植物社会学の発達とほぼ時を同じくして, 京都と仙台の2つの中心から発達していった.そして時代的に, 氷河期以後の新しい堆積物の研究と, 第3紀の亜炭の研究とにわかれる.したがつて第3紀以後の植物社会変遷の歴史をまとめるには, 花粉分析の成果を肉眼的植物遺体の研究も, あわせて考察する必要がある.主として粘土の中から取り出された針葉樹類の遺体, ヒシの実, ブドウの種子等の肉眼的植物遺体の研究から, 三木茂は, 第3紀をスギ科時代とマツ科時代とに区別し, スギ科時代の終末は極の移動による海退をともなわない低温によるものであると推定し, 洪積世を通ずる針葉樹の変遷と共に間氷期にあらわれる温暖気候のフロラを証明した. 仙台の神保忠男, 相馬寛吉らは第3紀亜炭の花粉分析の結果から, 三木茂の指摘した気候変化をみとめた.京都の山崎次男は同じく亜炭の花粉分析から, スギ科時代の終末を最上層群の中で断定することを試みた.なお第4紀については, カラフト, 北海道の湿原泥炭の花粉分析と, 現在の森林におけるエゾマツ対トドマツの混合率とから, 洪積世のある時代に現代よりも寒い時代があつて, その時代には現在北海道にないグイマツが北海道に生育していることを明らかにした.仙台の流れをくむ高知の中村純は尾瀬ガ原をはじめ, 主として中部以西の湿原の花粉分析から, 中部および西南部日本において, 世界各地に対応する気候変化が, RIという氷河期につぐ寒い時代の後, RIIという今よりも暖い時代がきて, その後再びRIIIという低温の時代がきたと主張している.堀正一は中部日本において, 8m以上の厚い泥炭層の詳細な花粉分析から, 気候変化の時間を大まかに推定している.以上の花粉, ならびに肉眼的遺体の研究を植物社会学的に考察すると, 日本列島がアジア大陸東岸との間に日本海をはさむ海中山脈であるという地理的位置に運命づけられて, 大陸性気団と海洋性気団との間に生ずる季節風によつて, 中軸山脈を境として島弧の内側と外側とに対立する気候型を生じ, さらにこれによつて植生配置が主動的に支配されている事実が, 第3紀以後の気候変動によつて, どのように変化をしてきたかを問題としなければならない.この極盛相森林の植物社会学的対立関係は, 垂直森林帯の上位のものにおけるほど, 刻である.低地帯と丘陵帯の極盛相であるスダシイ群団にあつては, 対立関係はほとんどみとめられない.低山地帯の針葉樹林は, 日本海岸では固有の植生帯を形成しないが, 太平洋岸では, それがみとめられる.なお, この植生帯は北方針葉樹林とインド・マライ系の常緑植物との複合体である.山地帯のブナ群団では, 立関係は一層明瞭となり, 対立する2つの群集がみとめられるばかりでなく, この群団を指標として日本を植物社会学的に, 裏日本と表日本にわけることができる.その上の亜高山帯では, 対立関係は極度に強化され, 北半球亜寒帯の針葉樹林の一部であるアオモリトドマツ群団の林帯は東北日本の日本海岸に全く欠け, これに対応する日本海岸の群集は針葉樹の林冠を欠くササの低木林である.以上のごとく, 気候型にもとづく対立関係は西南日本においては, 内帯と外帯とをわかつ中央構造線による地史的原因によつて強化され, 温度による植生の帯状配置にいちじるしいひずみを与えている.また第3紀以来の気候変動にともなう植生の北上, 南下において, ほぼ南北に走る日本列島の中軸山脈は, 西に走るヨーロッパのアルブス山脈や地中海のような障壁とならず, むしろ通路となつた. しかしながら, 気候変化にともなう海面の上昇下降は当然日本海の大きさを, 大いに変化させた筈であるから, 海進の時代と海退の時代が交互するにつれて, 日本海岸の気候は海退時には大陸的乾燥に傾き, 海進時には, もし温度気候に温帯的な部分があれば, 多雪気候を, また亜熱帯的な気候であれば, 多雨気候を生ぜしめた筈である.現在ササとこれに伴う地這性の常緑低木は雪の下に保護されて北海道まで北上しているが, これらのフロラはいわゆる遺存植物ではなく, 新しい環境に対して順応進化して生じた-群の生物であろう.日本列島の生物界そのものが, 北からの針葉樹フロラの影響と南からのインド・マライ系の常緑広葉フロラとの複合体である.日本の花粉学はすでに北からの針葉樹の南進をたしかめ得た.もし, 南からの広葉樹の北進に眼をそそぐ時, 特に多雪気候に適応したササならびに地這性常緑低木に注目したならば, その植物社会学的意義は増大されるであろう.

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