- 著者
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三宅 哲
- 出版者
- 一般社団法人日本物理学会
- 雑誌
- 日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
- 巻号頁・発行日
- vol.50, no.11, pp.873-876, 1995-11-05
私が強磁場中の電気伝導研究の手伝いをするようになったのは,1958年10月25日の土曜会食のときに「三宅くん,手伝って下さい」とお声がかかったのが始まりであった.それまで久保先生,橋爪先生と一緒にこの仕事をしていた長谷川洋さんがs-d相互作用の問題に移り,またその秋からLa Jollaへ留学することになった.そこで,Journalの論文"Quantum Theory of Galvanomagnetic Effect. I. Basic Consideration"が投稿された(10月4日受理)のを期に選手交替となったらしい,早速,会食が終わるとすぐに久保先生から課題の説明があり,「ちょっと急ぐんですがね」と軽く一鞭がはいって,修士2年生は闇雲に駈け出した.と言っても,非力のために思うようには進まず,両先生をやきもきさせ,本人もしばしば頭を抱えこむこととなった.「統計力学の非常に魅惑的な問題」とPeierlsが書いている強磁場中の電気伝導の問題を,久保先生は前から考えておられたとのことで,橋爪先生によれば,1955年の夏から長谷川さんと計算に取り掛かっておられたそうである.いくつかの方法が試みられた後,久保公式から出発して直流電気伝導率を電子の中心座標の移動で表す式が導かれた.その導出とそれに続くべき計算の方針とが論文Iとして発表された.その内容を以下で簡単に説明しよう.