- 著者
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澤村 貫太
- 出版者
- 関西学院大学
- 雑誌
- 臨床教育心理学研究
- 巻号頁・発行日
- vol.30, no.1, pp.65-70, 2004-03-25
- 被引用文献数
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今回の実験においては,各音楽刺激による各生理反応の変化,加えて被験者の心理的な指標を計り,曲調の違う3パターンのカノンで,いかに音楽を聴取する人が「癒し効果」に至るのかを検証してきた。癒しの効果がある音楽を提示するには,本来複雑な要素が重なり合って初めて成立するものだと考えられる。音楽の持つ構成要素として,メロディ・リズム・ハーモニー以外にも,音色,緩急と強弱。さらに,これらの総合的な配置や組み合わせにより,生み出される音の厚み,透明度,騒音性,立体感など。またそれらの変化が織成す音の流れの力動や波動,緊張や弛緩によって「癒し」効果は生まれてくるのではないかと推察される。さらには,その効果を引き出すための音楽を聴く環境にも配慮しなければならない。「目的」で述べたように,現代の社会では音楽による癒し効果が更に求められてくるであろう。医療の現場においてもその効果が,着目されており,その重要性は日毎に増すばかりである。そうした中で,最大限のリラクゼーション効果を得るためには,音楽の繊細さ,複雑さを充分に理解した上で使用しなければならない。科学的に分析する上で,被験者(人間)の嗜好性やその時の感情,環境などの要素を,複合,多面的に検証する必要がある。そのことを踏まえ,今後,より普遍的で個人に寄り添った研究・考察を重ねていかなければならないと考える。