著者
郡司 幸夫
出版者
日本古生物学会
雑誌
化石 (ISSN:00229202)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.17-34, 1986

生物の分布は種の様々な環境要素に対する耐性, 移動様式, 種間競争等によって決まるが, 群集構造の認識はこの分布様式によって与えられると考えられる.生物種の耐性が比較的狭い場合は, 群集を物理化学的環境への適応種群の組み合わせとして認識できる(Chinzei and Iwasaki, 1967; Chinzei, 1978).しかし筆者が扱った腕足動物群集は各種の耐性が広く, 観察した環境下での種の分布はすみ分けの一種であると考えられる.このようなすみ分けは, 生物が増殖と移動を繰り返して種間で競争する場合, 増殖または移動様式がある環境要素の関数になっていれば, 容易に実現されることが数値計算により明らかとなった.したがって逆に分布を調べることで, 種間関係から群集を特徴づけられることがわかった.そこで, 実際にある条件下で適用できる静的競争系モデルを用い, 各種の深度に対する分布, 種間の個体数相関係数から, 種間関係を解析した.その結果, 屋久島・種子島近海の腕足動物群集は次のように認識された.第1に130〜170mの深度に生息適性を有する競争系が存在する.ここではC. pacifica, G. tokionis, G. hanzawai, C. basilanicaの順に順位づけられる.第2に共存し得る競争系が存在し, 第1の系と第2の系は, G. tokionis, C. basilanicaとB. lucidaが共存し得るような強い種間関係をもつことで結びついている.第3に, 以上2つの系とは強い種間関係をもたず, 含泥率の低い環境に適応したP. pictaが認められる.機能形態学がRudwick (1964)以前の適応主義一辺倒からSeilacher (1970)のBauplan的視点へ進んだ歴史を見, とりわけ構造的制約が注目されていることを考えても, 群集を構成する材料単位としての種の種間関係を解析していくことは今後更に必要となろう.近年種間競争の数学的解析がすすみ, May and Leonard (1975)は3種競争系の安定性を論じ, Mimura (1979)は捕食者-被捕食者系の空間分布を論じている.筆者の議論は, このような動力学的扱いから種間競争の解析をし, その要素を取り入れて群集を認識しようとする一つの試みである.

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