- 著者
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水内 俊雄
- 出版者
- 経済地理学会
- 雑誌
- 経済地理学年報 (ISSN:00045683)
- 巻号頁・発行日
- vol.40, no.1, pp.p1-19, 1994-03
- 被引用文献数
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空間への言及は近年隣接諸科学において著しいものがある. 中でも都市史研究は, 都市論, 江戸・東京論と接合して, 多くの研究蓄積をみる. 本稿では特に, 明治期以降の近代都市空間形成を分析対象にした都市史研究にいかなる蓄積があるかを概観した. 中でも地理学の研究視角に符合し, それでいながら, 地理学が不問にしてきたいくつかの問題群について, 空間構築論, 空間を創出する思想, 計画的意図, それらを背景から支える政治的・社会的コンテキストを踏まえた立場からの研究整理を行なった. 明治期においては, 東京の市区改正事業を除いて, 都市の経済基盤を支える成長部門への投下が市営事業の成立につながり, 加えてイベントを利用した街路整備事業が主流をなしたこと, 大正中期の本格的都市政策の登場の背景として, 都市イデオローグの存在の重要性を指摘し, その制度自体が社会政策・住宅政策と混合し, なおかつ都市計画も包含されるような, まさしく都市社会政策が, 新たな都市空間の創出をになったこと, 震災復興事業などで実際の事業が大々的に進行してゆく中で, 区画整理事業などが全国的に一般化したこと, 戦時体制では, 規格化・標準化の流れの中で, 都市計画, 住宅政策の質的転換がみられ, 社会政策的色合いが薄くなり, その画期をなす事業がニュータウンづくりの原初形態としての新興工業都市計画事業であったことなどを指摘した. なお, 創出された都市空間のさまざまな断片をいかに解読するか, その行為や心性を読み, 文化を摘出する作業は, 本稿では紙幅の関係もあり, 触れていない.