- 著者
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大場 茂明
- 出版者
- 経済地理学会
- 雑誌
- 経済地理学年報 (ISSN:00045683)
- 巻号頁・発行日
- vol.40, no.2, pp.126-138, 1994-05-31
世紀転換期のドイツにおいては, 労働者階級の住宅問題(小住宅問題)が社会政策の焦点となった. 本稿では, 急激な工業化の結果, 住宅問題が深刻化したルール地域の工業都市エッセンを事例に, 様々な主体による非営利的住宅供給と自治体の住宅政策の展開について, 当時の都市計画, 都市内部構造の分化という空間的側面から考察を行った. 当該地域においては, クルップ社による社宅の大量供給がみられるものの, 他の非営利的住宅供給主体(住宅協同組合, 公益的建設会社, 市営住宅)による供給量はわずかであった. しかも, 同市の間接的住宅政策は, 土地政策, 都市計画と連関しつつ実施され, 後の住宅事情の改善や郊外における良好な市街地形成に貢献した点では評価さるべきものであるが, それは中間層に対する助成策が主体であり, 小住宅問題の改善においては限界があった.