著者
大場 茂明
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.126-138, 1994-05-31

世紀転換期のドイツにおいては, 労働者階級の住宅問題(小住宅問題)が社会政策の焦点となった. 本稿では, 急激な工業化の結果, 住宅問題が深刻化したルール地域の工業都市エッセンを事例に, 様々な主体による非営利的住宅供給と自治体の住宅政策の展開について, 当時の都市計画, 都市内部構造の分化という空間的側面から考察を行った. 当該地域においては, クルップ社による社宅の大量供給がみられるものの, 他の非営利的住宅供給主体(住宅協同組合, 公益的建設会社, 市営住宅)による供給量はわずかであった. しかも, 同市の間接的住宅政策は, 土地政策, 都市計画と連関しつつ実施され, 後の住宅事情の改善や郊外における良好な市街地形成に貢献した点では評価さるべきものであるが, それは中間層に対する助成策が主体であり, 小住宅問題の改善においては限界があった.
著者
小玉 徹 矢作 弘 北原 徹也 小長谷 一之 佐々木 雅幸 大場 茂明 桧谷 美恵子
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

研究代表は、2007年3月、「大不況以来で最悪の10年間」と表現されるニューヨークの深刻なホームレス問題について調査(自費)した。そこで明らかになったことは、1996年の福祉改革によるワークフェアへの移行により、住宅への補助が削減されるとともにジェントリフィケーションの影響で家賃が上昇し、ワークファーストを強いられたワーキングプアとなった母子世帯がシェルターでの生活を余儀なくされている、という事態であった。これに対してローカルな福祉システムが作動しているドイツでは、高い失業率にもかかわらず、失業扶助、社会扶助、住宅手当によりソーシャル・ミックスが維持されてきた。しかしながら2005年以降、ハルツ改革によりワークフェアへと移行したことで、住宅手当、就労支援の両方にかかわる変更がなされ、都市での社会的分離の進行が危惧されていることが、最近、刊行された論考で指摘されている(Kafner S.,2007,"Housing allowances in Germany".in Kemp P.A.ed.Housing allowances in comparative perspective,The Policy Press).。なおドイツでは1999年以降、問題地域の対応プログラムとして社会的都市(soziale stadt、全国200カ所)がスタートしている。ニューディール・コミュニティ、都市再生会社によるイギリスのインナーシティ再生では、ニュー・エコノミーによる雇用の拡大、住宅、雇用、小売り、コミュニティ・サービスとレジャー施設のコンパクトな配置、さまざまな住宅テニュアの混合によるソーシャル・ミックスが意図されている。しかしながらこうした主張は、物理的な改変が社会問題の解決につながる、というニュー・アーバニズムに依拠している。