著者
成田 孝三
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.308-329, 1995-12
被引用文献数
5

グローバルな経済システムの中枢として機能している現在の世界都市の盛衰は, 多国籍企業の立地戦略と国際的に移動する人々の性格によって規定される. 後者は少数のエリートと多数の移民労働者よりなるが, 本稿が問題とするのは受け入れ国におけるエスニックマイノリティとしての移民労働者である. 80年代に急増した東京の移民労働者(ニューカマー)は, 非合法就労者, 底辺労働者, 被搾取者, 被差別者, 社会問題の発生源等々と極めてネガティブに評価されてきた. しかし移民労働者は都市に活力をもたらす可能性を保有しており, その発現を妨げてきたのは彼らを受け入れる方式である, というのが筆者の基本的な視点である. 例えば65年の移民法修正後にアメリカで増加したいわゆるニューカマー, とりわけアジア系の移民労働者の多くは, 強固な家族的紐帯, 高い教育水準, 多様な民族的組織, 旺盛な労働意欲等によって社会的上昇を遂げ, 大都市インナーシティの再活性化に寄与してきた. 彼らがそのようにポジティブな存在であり得るのは, 就労の権利を得た家族として定住しているからである. わが国でもそれに対応するものとしてオールドカマーたる在日韓国・朝鮮人が存在する. このような視点の有効性を示すために, 「在日」の大集積地であり, 典型的なインナーシティである大阪市生野区と東京都荒川区を主要な対象地域として, 「在日」の就業構造, 事業活動, 街づくり, 住宅改善の実態を検討した. その結果, 民族差別のきつい日本社会の中で彼らは大きなハンディを背負いながらも, たくましいエネルギーを発揮して, 自らの生活とコミュニティの向上に努め, インナーシティの活力保持に貢献していることが明らかになった. 就業機会を極めて狭く限定し, できるだけ単身者を短期間受け入れようとしているわが国の対ニューカマー政策は, 彼らにとってマイナスであるといわねばならない.

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