著者
中川 秀一
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.79-100, 1996
被引用文献数
1

林業就業者の減少, 高齢化が進む中で, 森林の管理を誰が行っていくのか, という問題に対する展望は示されてこなかった. こうした中で, 近年, 都市部で生活していた人々の間に, 山村に移住し林業に携わる人々があらわれはじめ, 注目を集めている. 本研究は, 岐阜県加子母村森林組合の事例から, 林業事業体側の対応と新規就労者の林業および山村の生活への適応について検討し, 今後の定着可能性につぃて考察した. 加子母村森林組合は, 村有林作業班の統合を経て, 「東濃桧」販売収益の増大を財政基盤に, 通年雇用・完全月給制による直営作業班を実現した. しかし, こうした雇用条件改善は村内労働者からは敬遠され, 名古屋大都市圏を中心とする都市部出身者によって新たな作業班が編成された. 新規就労者はいづれも20〜30歳代半ばで, 独身者または幼少の子供のいる世帯主である. 両者の新規就労の要因, 林業観には差異が認められ, とくに後者は新規就労の動機として農村生活への希求を挙げる傾向が強い. しかし, 近所付き合いなど農村生活の困難を感じ, 現職に慎重になっているのはむしろ後者であり, 前者は現在の職業に楽観的である. 全般的に彼らの林業技術習得は着々と進んでおり, 林業技術者としての展開は期待される. しかし, ライフサイクルの進展にともなう, 子供の教育機会, 結婚問題など, 山村問題一般への対応に迫られることが予想され, 地域に定着した労働力とみなすのは早計である. 林業労働力としてこうした新規就労を位置づけるためには, むしろ, 彼らの流動性を包含できるような, 地域間労働力移動を前提とするシステムが必要であろう.

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