著者
中川 秀一 宮地 忠幸 高柳 長直
出版者
農村計画学会
雑誌
農村計画学会誌 (ISSN:09129731)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.380-383, 2013-12-30 (Released:2014-12-30)
参考文献数
34
被引用文献数
1

This paper discusses the endogenous development theory in Japan based on the “regions”. It raises contemporary topics by reviewing empirical research in rural geography and by examining some practices in regions. The endogenous development theory has been developed as a social movement theory of municipality. However, since rural areas have been diversified, they should be taken up as places of human development. Therefore the endogenous development theory should be a forum for interdisciplinary research of “regions”.
著者
市川 康夫 中川 秀一 小川G. フロランス
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2018, 2018

フランス農村は、19世紀初頭から1970 年代までの100年以上に渡った「農村流出(exode rural)」の時代から、人口の地方分散と都市住民の流入による農村の「人口回帰」時代へと転換している。農村流出の契機は産業革命による農業の地位低下と農村手工業の衰退であったが、1980年代以降は、小都市や地方都市の発展、大都市の影響圏拡大によって地方の中小都市周辺部に位置する農村で人口が増加してきた。しかし、全ての農村で人口増がみられるわけではなく、とりわけ雇用力がある都市と近接する農村で人口の増加は顕著に表れる。本稿では、地方都市と近接する農村でも特に人口が増えている村を事例として取り上げ、移住者へのインタビューからフランス農村部における田園回帰の背景とその要因を探ることを目的とする。本調査が対象とするのは,フランスのジュラ山脈の縁辺に位置する山間の静かな農村地帯にあるカンティニ村(Quintigny)である。カンティニ村は、フランス東部フランシュ・コンテ地域圏のジュラ県にあり、ジュラ県庁所在地であるロン・ル・ソニエから約10km、車で20分ほどの距離に位置している。カンティニ村では、フランス全体の農村動向と同じく、19世紀末をピークに一貫して人口が減少してきたが、1980年代前後を境に、周辺地域からの流入によって人口が増加し、1975年に129人であった人口数は、2017年には262人と2倍以上になっている。隣村のレ・エトワール村は、「フランスで最も美しい村」に指定されており、観光客の来訪や移住者も多い。一方で、カンティニ村は目立った観光資源などは持たないが、移住者は静かな環境を求めて移住するものが多いことから、この点に魅力に感じて移り住むケースが多い。<br><br> カンティニ村への移住者は、20~30歳代の若年の子育て世代の流入が多く、自然が多い子育て環境や田園での静かな生活を求め、庭付き一戸建ての取得を目的に村に移住している。カンティニ村内は主たる産業を持っておらず、ワインのシャトーとワイン工場が2件あるがどちらも雇用数は10人程度と多くない。農家戸数も1950年代に26戸あったものが、現在では2戸になり、多くの農地はこれら農家に集約されたほか、移住者の住宅用地となっている。<br>本研究では、2017年8月にカンティニ村の村長に村における住宅開発と移住者受け入れ、コミュニティについて聞き取り調査をし、実際に移住をしてきた15軒の移住世帯に聞き取り調査およびアンケート調査を実施した。移住者には、移住年、家族構成、居住用式、居住経歴、移住の理由等、自由回答を多く含む内容で調査を行なった。<br> カンティニ村における移住者は、1980年代より徐々に増加し、特に2000年代以降に大きく増加している。カンティニ村における移住には2タイプあり、一つは村が用意した移住者用の住宅区画に新しい住宅を建設して移住するタイプ、もう一つは、②空き家となった古い農家建築を移住者が購入し、居住するタイプである。古い農家建築は築200~300年のものが多く、リフォームやリノベーションが必要となる。<br> 農村移住者の多くは、ジュラ県あるいはその周辺地域の出身者であり、知人からの口コミや不動産仲介からの紹介、友人からの勧めをつてにカンティニ村を選択していた。移住者の多くは、小都市ロン・ル・ソニエに職場を持っており、ここから通える範囲で住宅を探しており、かつ十分な広さと静かな環境、美しい自然・農村景観や農村建築を求めて移住を決めている。いずれも土地・住宅は購入であり、賃貸住宅や土地の借入はない。<br> 移住者がカンティニ村を評価する点としては、都市に近接しながらも今だに農村の風情や穏やかな環境、牧草地やワイン畑が広がる豊かな景観があること、美しい歴史地区の農村建築群、安価な住宅価格と広い土地、そして新しい住民を歓迎する村の雰囲気が挙げられている。そして、特に聞かれた点としては、主要な道路から外れてれおり、村内を通り抜ける車がないこと、村内に商店がワインセラーを除いて1件もないことに住民の多くは言及しており、「静寂」と「静けさ」を何よりの評価点として挙げている。また、多種多様な活動にみられるように、「村に活気がある」という点も多く聞かれた。また住民の仕事の多くは時間に余裕のある公務員であり、歴史建築を購入し自らリノヴェーションすることが可能であったこと定着の背景である。
著者
市川 康夫 中川 秀一 小川 G. フロランス
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.258-270, 2019 (Released:2019-07-03)
参考文献数
17

現在,西ヨーロッパ農村では,都市から農村への人口回帰が進展している.本研究は,フランスの人口増加農村を事例に,農村移住者の田園生活はどのようなものであり,その背景には何があるのかについて,彼らの意識に注目して論じた.カンティニ村の移住者増加は,通勤・通学地としての都市との結びつき,静かな環境,手頃な土地価格,古い農村家屋や景観の美しさが背景にあった.移住者の多くは自主リフォームを好むため,公務員など時間に余裕のある人々であった.彼らは,立地や環境だけではなく,村に活気があることを高く評価していた.カンティニ村は,住民同士の地域内でのコミュニケーションを重視する一方,それを必ずしも強制しない点が特徴といえる.
著者
中川 秀一
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.79-100, 1996
被引用文献数
1

林業就業者の減少, 高齢化が進む中で, 森林の管理を誰が行っていくのか, という問題に対する展望は示されてこなかった. こうした中で, 近年, 都市部で生活していた人々の間に, 山村に移住し林業に携わる人々があらわれはじめ, 注目を集めている. 本研究は, 岐阜県加子母村森林組合の事例から, 林業事業体側の対応と新規就労者の林業および山村の生活への適応について検討し, 今後の定着可能性につぃて考察した. 加子母村森林組合は, 村有林作業班の統合を経て, 「東濃桧」販売収益の増大を財政基盤に, 通年雇用・完全月給制による直営作業班を実現した. しかし, こうした雇用条件改善は村内労働者からは敬遠され, 名古屋大都市圏を中心とする都市部出身者によって新たな作業班が編成された. 新規就労者はいづれも20〜30歳代半ばで, 独身者または幼少の子供のいる世帯主である. 両者の新規就労の要因, 林業観には差異が認められ, とくに後者は新規就労の動機として農村生活への希求を挙げる傾向が強い. しかし, 近所付き合いなど農村生活の困難を感じ, 現職に慎重になっているのはむしろ後者であり, 前者は現在の職業に楽観的である. 全般的に彼らの林業技術習得は着々と進んでおり, 林業技術者としての展開は期待される. しかし, ライフサイクルの進展にともなう, 子供の教育機会, 結婚問題など, 山村問題一般への対応に迫られることが予想され, 地域に定着した労働力とみなすのは早計である. 林業労働力としてこうした新規就労を位置づけるためには, むしろ, 彼らの流動性を包含できるような, 地域間労働力移動を前提とするシステムが必要であろう.