- 著者
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鈴木 茂
- 出版者
- 経済地理学会
- 雑誌
- 経済地理学年報 (ISSN:00045683)
- 巻号頁・発行日
- vol.37, no.1, pp.10-23, 1991-03-31
- 被引用文献数
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わが国において,1980年代になると,「技術立国」構想が提起され,ハイテク型産業の誘致・育成を基調とした地域開発政策が全国的に展開されるようになった.その典型がテクノポリス構想である.テクノポリス構想が公式文章に登場して以来10年を経過し,1990年はテクノポリス開発計画の目標年次である.テクノポリスを実績に基づいて評価することが可能になったといえる.テクノポリスは,従来の地域開発政策と異なって,地域のR & D機能の整備や空港・高速自動車道周辺に内陸工業団地を建設するとともに,都市機能を整備してハイテク型産業の集積や研究者・技術者の定住を図ろうとするところに特徴がある.しかし,1985年の円高・産業構造調整とそれを契機とする生産拠点の海外へのシフトによって,多くのテクノポリス地域では工業開発の目標を達成できていない.そのうえ,テクノポリスの重要な政策課題である地域技術水準の高度化は,進出企業と地場企業の技術格差のために技術移転が円滑に進んでいない.例えば,代表的なハイテク型産業であるIC産業が集積している九州地域においても,集積しているのは生産機能であり,生産に係わる技術集積が見られるが,研究開発開発機能の集積が弱く,地場企業との技術格差が拡大して技術移転をあまり期待することができなくなっている.さらに,テクノポリス地域においては公設試験研究機関が再編拡充されたが,整備の中心が施設や研究機器におかれ,研究者・技術者がほとんど増員されていないために,研究開発機能が実質的に強化されていない.むしろ,ハイテク型産業や民間研究所の一極集中傾向が強まっており,ハイテク時代における地域振興を図るには,公的な試験研究機関の抜本的な拡充を図る必要があろう.