著者
川久保 篤志
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.246-265, 2000-09-30
被引用文献数
1

第2次対戦後わが国のみかん農業は, 1961年の農業基本法の下で選択的拡大部門の1つに位置づけられ, 生産・流通面で多大な政策的補助を受けながら大きく発展した.この結果, 特に九州地方では政策主導型の新興みかん産地が数多く形成されたが, これらの多くは1972年以降のみかん価格低迷下で激化した産地間競争で敗退し, 産地は縮小・崩壊の傾向にある.そこで本稿では, パイロット事業の実施によって大産地が形成された大分県国東町を事例に政策主導型産地の崩壊要因の分析を試みた.その結果, パイロット事業の実施経過の分析からは, (1)事業の着工が1969年と価格低迷期の直前であったため, 事業参加農家がみかん農業の高収益期を経験できなかったこと, (2)造成面積482haもの大規模な事業に見合うだけのニーズが地元農家になかったにもかかわらず事業が推進されたこと, (3)造成農地には土壌・地形・日照の面で栽培に不適な部分が多く含まれていたこと, の3点が明らかとなった.また, みかん栽培の中心集落における農家経営の分析からは, (1)みかん栽培の歴史が浅く, 先祖から伝わる独自の栽培技術等がなかったため, 産地間競争の激化に際して, 品質の向上に基づく高価格販売も土地生産性の向上によるコストダウンも実現することができなかったこと, (2)後継者世代が他産業へ就業したため農業労働力が高齢化していき, みかん園の管理ができなくなったこと, (3)パイロット事業で購入した農地への執着心が弱く, 負債額もそれほど大きなものではなかったこと, の3点が明らかとなった.

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