- 著者
-
吉川 真美子
- 出版者
- 日本犯罪社会学会
- 雑誌
- 犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
- 巻号頁・発行日
- no.27, pp.88-101, 2002-10-26
米国におけるドメスティック・バイオレンス(以下DV)への警察の対応は,過去四半世紀で不介入原則から加害者の積極的逮捕へと大きく変化した.今日では殆どの州が「相当の理由」に基づく令状なしの逮捕を警察官に許可している.しかし,警察官は加害者の逮捕に消極的であるという批判はなくならず,いわゆる「寛大さの仮説」を検証する調査研究が行われてきた.加害者と被害者の間の「親密な関係」を特徴とするDV事件では,警察官のジェンダー・バイアスによって,犯罪である暴力が見逃されたり,女性被害者が差別的に扱われたりすることもある.また,DV犯罪への対応では,従来の被疑者に対するデュー・プロセスの保障と,新しいジェンダー問題としての被害者保護という二つの目的を実現しなければならない.本稿では,逮捕の決定に大きく影響するのは,加害者と被害者の「親密な関係」,状況的要素や法的要素であることが判明した.「親密な関係」のイデオロギー性を指摘するとともに,状況的要素や法的要素が被害者保護の要請や手続法上の要件といかに関連しているかを考える.