著者
薄井 宏
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.8, pp.332-342, 1958-08-25
被引用文献数
4

1. この報告は奥日光森林植生調査の第二報で男体山を除く全域についての調査をとりまとめた。2. 奥日光は夏雨型の太平洋型気候と冬雨型の日本海型気候とが共に支配する境界域であつて, その境界線はミヤコザサとチマキザサの分布境界と一致する。即ち刈込湖, 湯元, 小田代ガ原, 千手ガ原を結ぶ線である。3. ミヤマハンノキ=オノエガリヤス林は高山帯の崩壊地に発達する二次林で, そのススキ=スゲ型林床は男体山大薙崩壊地の二次林, ヤシヤブシ=トウヒレン群集と同一の植生類型を示す。4. ウラジロモミ林は奥日光においては, 噴出の比較的新しい男体山にのみみられる群落である。第三紀地質の山では, コメツガ林とブナ林とは直接に接続して, その中間にウラジロモミ林はみられない。これは第三紀地質の山では侵蝕作用がすすみ, 地形が急なためにツガ型森林が下降してブナ林と接続することによる。5. 太平洋側に発達するブナ林は, ブナ=スズタケ群集と呼ばれる如く, スズタケを林床にもつ場合が多い。しかし今回の調査によつて太平洋岸内陸部山地のブナ林では, ミヤコザサの勢力が圧倒的に強いことが明らかにされた。その原因は, 雪の少ない寒さのきびしい冬の気候がスズタケの生育地を局所的に積雪の多い山足地あるいは谷すじに限定し, 代つてミヤコザサがその半地中植物的な寒さに有利な形質をもつ故に, 殆んど全域にわたる程の広い分布領域を穫得できたからであろう。なぜならばミヤコザサはその上半部の稈節に芽を欠如しており, この形質が地上冬芽の生活形から半地中植物的な生活形への変化を表示するからである。6. 植生調査の結果は次の如き群集にまとめられる。高山帯 : 1. ハイマツ=コケモモ群集のダケカンバ亜群集 2. ミヤマハンノキ林 亜高山帯 : 3. コメツガ群集 A.アスナロ亜群集 4. ヒメコマツ=シヤクナゲ群集(新称) 5. ウラジロモミ林 山地帯 : 6. ブナ=スズタケ群集のミヤコザサ, フアシース 7. ハルニレ群集 8. オオバヤナギ林 9. カラマツ=シラカンバ林

言及状況

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こんな論文どうですか? 太平洋-日本海気候域境界における森林植生 : 男体山をのぞく奥日光の山岳森林(薄井 宏),1958 http://id.CiNii.jp/L4deL
こんな論文どうですか? 太平洋-日本海気候域境界における森林植生 : 男体山をのぞく奥日光の山岳森林(薄井 宏),1958 http://id.CiNii.jp/L4deL

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