著者
檜垣 守男
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.518-523, 2005-02-28
被引用文献数
1

キリギリス科昆虫の一種イブキヒメギス(イブキ)は, 本州中部以北, 特に高地に多く生息する。本種は, 胚発育中に初期胚で起こる初期休眠と成熟胚で起こる最終休眠の2つの休眠を経験する。それぞれの休眠期で越冬してから孵化する2年1化の生活史を基本とするが, 初期休眠の長期休眠性により, 孵化までに2∿4年を要する卵が混在する。初期休眠の生態的意義を探るため, 本種と, 最終休眠のみを持ち, 主に低地に生息する年1化のヒメギス(ヒメ)の生活史を比較した。弘前では, ヒメの産卵は7月下旬に始まり, 短期間に集中的に行われた。8月下旬以降に産下された卵は最終休眠期に到達できず, 翌春の孵化が大きく遅れた。一方, イブキの産卵は8月上旬に始まり, 秋遅くまで続いた。産卵期の早晩は2年後の孵化期に影響しなかった。高地のイブキの孵化・羽化期は平地の系統より遅く, 特に羽化期は年によって大きく変動した。ヒメギス類は幼虫発育に高温を必要とするため, 高地のイブキは, 冷夏や日照不足によって深刻な影響を受けると考えられた。以上より, イブキは初期休眠を持つことによって, 発育季節が短く, 不安定な地域での生活を可能にしていると考えられる。

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