著者
島田 博匡
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.122-127, 2007 (Released:2008-02-12)
参考文献数
14
被引用文献数
4 5

三重県尾鷲地域のウラジロに覆われた再造林放棄地を森林再生するために,低コストで更新木に対するシカ食害を防止する手法の確立が求められている。再造林放棄地内でウラジロを坪刈してヒノキ苗木を植栽し,坪刈地内へのシカの侵入と植栽木の成長を2~3年間調査した。シカの坪刈地内への侵入頻度は斜面傾斜が急であるほど低い傾向があり,植栽木の樹高成長は植栽初年度の食害程度や2年目以降の頂枝食害頻度が低いほど大きい傾向が認められた。そのため,急傾斜の斜面部では,この手法によりシカ食害を防ぎつつ植栽木を育成できると考えられた。
著者
片倉 慶子 河上 友宏 渡辺 洋一 藤井 英二郎 上原 浩一
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.606-612, 2019-05-31 (Released:2019-07-27)
参考文献数
37
被引用文献数
1 1

現在日本に生育するイチョウは中国から伝来したものだが,日本各地に拡散された過程は明確でない。本研究では,樹齢が長く日本に伝来した当初に近い遺伝的特徴を維持していると考えられる各地のイチョウ巨木を対象とし,遺伝的変異の地域的特性から,日本におけるイチョウの伝播経路および伝播方法の推定を試みた。九州から本州東北部の胸高幹周8 m以上の巨木から葉を採取し,180個体199サンプルについて8つのマイクロサテライトマーカーを用いて解析を行った。解析の結果,8遺伝子座から8~21の対立遺伝子を検出し,142種類の遺伝子型が認識され,13種類の遺伝子型が70個体で共有されていた。遺伝子型を共有している個体はクローンであると考えられ,地理的に離れて分布している場合もあることから,日本におけるイチョウの伝播には種子だけでなく挿し木等の方法も用いられたと考えられる。遺伝的多様性を比較すると,遺伝子多様度(HE)は0.57-0.82,アレリックリッチネス(AR)は4.51-8.49を示し,どちらも他地域に比べ東日本で低い値を示したため,中国から西日本にイチョウが伝来し,その一部が東日本に運ばれたと考えられる。
著者
森川 政人 小林 達明 相澤 章仁
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.103-108, 2012 (Released:2013-04-16)
参考文献数
16
被引用文献数
2

学校プール内に生息している水生昆虫相の種,個体数について,東京都及び千葉県内の 4 地域計 32 校において,2007 年 5 月~2008 年 5 月までの使用期間外に各校月 1 回程度調査を実施した。調査の結果を TWINSPAN で解析したところ,東京都と千葉県が異なるグループに分類された。ヒメゲンゴロウ,コシマゲンゴロウ,ミズカマキリ,ショウジョウトンボは東京都の学校プールで確認することができなかった。種数に差が確認された要因として,種の供給源となる学校プール周辺の水田面積や周囲の樹木の有無などが考えられた。主にトンボ目の個体数の差に影響を与える要因としては,学校プール周囲の植生から供給される落葉である可能性が示唆された。
著者
大磯 毅晃 石坂 健彦 森崎 耕一 小谷地 進太 浅川 尚熙 国武 陽子
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.131-133, 2020-08-31 (Released:2020-12-25)
参考文献数
5
被引用文献数
1 2

1989年の千葉東金道路建設の際にトウキョウサンショウウオの生息地が確認され,1993年から1995年にかけて同道路近傍に代替産卵池の整備がなされた。2016年から2020年にかけて,その整備効果を把握することを目的として,地元大学との共同で同池及び周辺地域において産卵状況調査を行った。その結果,同池周辺地域において既存産卵水域は乾燥化などによる消失が多くみられた。一方,同池では年間平均100個以上もの卵塊が確認された。以上より,当池は整備後20年以上経過した現在も,なお効果を十分に発揮しており,道路建設により整備したビオトープが地域個体群の維持に欠かせないものとなっていることが示唆された。
著者
國分 美華子 田中 夏子 榮 結以 掛谷 亮太 野澤 佳司 村津 匠 瀧澤 英紀 小坂 泉 阿部 和時
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.271-274, 2015 (Released:2016-04-19)
参考文献数
5

治山・砂防堰堤(以下,堰堤)は,渓流生態系に影響を及ぼすと考えられる。本研究では,水生昆虫に焦点をあて,堰堤建設による渓流環境の変化が水生昆虫の生息状況にどのような影響を与えるか検討した。調査は,神奈川県西丹沢地区の中川支流の白石沢上流で行った。堰堤直上流部の土砂堆積域(以下,堰堤土砂堆積域),堰堤の直下流域及び付近に堰堤が建設されていない自然渓流域にて水生昆虫の採集を行った。データ解析の結果,総個体数は堰堤土砂堆積域で最も多く,総種数は自然渓流域で最も多かった。このことから,堰堤建設による渓流の安定化・単調化は,水生昆虫の生息場所を減少させ種の多様性を低下させていると考えられた。
著者
中島 敦司 山本 将功 大南 真緒 仲里 長浩 廣岡 ありさ
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.26-31, 2011 (Released:2012-03-14)
参考文献数
10

本研究では,キンモクセイの2度咲き現象が近年の温暖化,高温化の影響である可能性を検討する目的で,花芽分化期の夏季から開花期の秋季にかけて野外の気温に対して3℃ 加温したグロースチャンバー内で育成する実験をおこなった。その結果,加温処理によって開花の開始は遅れ,開花期間は長期化した。また,花ごとの開花日数は,開花期の後期に開花した花で短縮化された。さらに,加温によって開花期に複数回のピークのある2~3度咲き現象が引き起こされた。この2~3度咲き現象には,1)集団内での個体ごとの開花時期のばらつきによる見た目の上での2~3度咲き,2)同一個体内での枝,花芽の着生部ごとの開花時期のばらつきによる見た目の上での2~3度咲き,3)同一箇所の花芽の着生部に複数の花芽が形成され,それらが段階的に開花する2~3度咲き,4)それらが複合された2~3度咲きの4パターンあることが分かった。
著者
福丸 拳梧 大澤 啓志
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.137-140, 2022-08-31 (Released:2022-11-22)
参考文献数
9

水辺ビオトープの普及に向け,物理的な環境操作を行うことにより,薬剤や外来捕食生物に頼らない水辺ビオトープでの蚊の発生を抑制する方法を検討した。光及び流水環境,水替え頻度を組み合わせた実験区を設け,2021年5~9月にかけて2週間毎にボウフラの発生数を計数した。止水条件下での日陰の有無で比較すると,日陰で発生数が多くなる傾向が認められた。日陰条件で止水域~流水域で比較すると,流速が弱い程,発生数が多くなる傾向が認められた。日陰の止水域条件で水替え頻度別で比較すると,頻度が低くなる程,発生数が多くなる傾向が認められた。
著者
増井 太樹 横川 昌史 高橋 佳孝 津田 智
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.352-359, 2018-11-30 (Released:2019-05-14)
参考文献数
47

自然公園における法面緑化指針において,緑化は自然の植生遷移の力を最大限活用することとされている。そのため,植生復元においては斜面崩壊後の植生回復状況を明らかにすることが重要である。そこで本研究では熊本県阿蘇地域の半自然草原において異なる時期に崩壊した複数の斜面(崩壊後4年:NLSおよび26年:OLS)と,それに隣接する崩壊が確認されていない斜面(C)で植生調査を実施し斜面崩壊後の半自然草原の植生状況を明らかにした。斜面崩壊後の植被率は,NLSよりもOLSでは高くなっていた。優占種はOLSではトダシバやヤマハギであったが,Cではススキとなり,斜面崩壊からの年数により異なった。種組成もそれぞれ異なり,オミナエシなど斜面崩壊後26年目の草原で出現頻度が高くなる種が存在した。すなわち,異なる年代の斜面崩壊地の存在が様々な植物の生育を可能にしていると考えられた。これらのことから,半自然草原の斜面崩壊地では時間の経過とともに植生が回復する場合があること,そして,異なる年代の斜面崩壊地に由来する植生が阿蘇地域の半自然草原の種多様性を高める要因となることが示された。
著者
大澤 啓志 新井 恵璃子
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.337-343, 2016 (Released:2017-03-16)
参考文献数
60
被引用文献数
1

花木であるアジサイの植栽利用に関わる文献類の渉猟を行い,その植栽に対する嗜好の時代変遷を考察した。また,観光対象としてのアジサイ寺の成立時期について,文献・ヒアリング調査を行った。嗜好の時代変遷では,鎌倉時代頃から庭への植栽が普通となり,江戸時代にはアジサイの栽培・増殖法も記された出版物が発刊されるとともに,「花が多数群れ咲く」ことへの嗜好の萌芽が認められた。明治以降も庭への植栽は普通に行われており,またセイヨウアジサイの輸入が始まり,公園等に群植がなされていた可能性もあるものの,直ぐには今日のようなブームにはならなかった。この間,「アジサイと社寺」の関わりを示す資料が認められた。そして 1960年代以降になって明月院 (神奈川県鎌倉市) に群生するアジサイが多くの人の目に止まり,これまでには無かった新たな観賞価値がアジサイに付与され,今日的な嗜好が確立されたと考えられた。各地で植栽される観賞用の緑化植物の一つであるアジサイについて,「庭の花木」を経て「社寺の花」という文化を底辺に持ちつつ,今日の「群生する花の美」の価値が生じた過程を明らかにした。
著者
西野 惇志 前原 裕 橋本 洸哉 内田 泰三 早坂 大亮
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.596-605, 2019-05-31 (Released:2019-07-27)
参考文献数
60

在来植物のクズ(Pueraria lobata)による景観や防災機能,生態系への悪影響が深刻化している。そのため,特に緑化地においては,本種の完全防除が求められている。本研究では,切土法面を対象に,法面植生の保全や回復性に配慮したクズの根絶手法について3年間にわたり探索した。近畿大学農学部周辺に位置する,造成後30年以上が経過した切土法面に20個の調査方形区を設置し,5つの処理を施した(無処理,イマザピル注入,引き抜き,年2回刈り取り,および遮光(試験1年目のみ年1回刈り取り))。各処理のクズ根絶効果に加え,切土法面植生の組成に及ぼす影響も評価した。その結果,引き抜きと遮光処理でクズの根絶が確認された。引き抜き処理を行うと一時的(一年程度)に裸地化するが,時間とともに法面植生の被度・種数は増加し,各種の生活型特性も多様化した。他方,遮光処理では期間を通じて法面植生は回復しなかった。その他の処理はクズの密度抑制には一定の効果を示すものの,根絶には至らなかった。以上のことから,本研究で選定された処理のうち,クズの根絶と法面植生の回復性の両面に貢献できる効果的な方法は,引き抜き処理である可能性が示唆された。
著者
崎尾 均 久保 満佐子 川西 基博 比嘉 基紀
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.226-231, 2013 (Released:2014-08-12)
参考文献数
29
被引用文献数
12

秩父山地においてはニホンジカの採食による森林への様々な影響が見られる。埼玉県秩父市中津川の渓畔林の林床植生の植被率は,1983 年には90% 程度であったが2004 年にはわずか3% にまで減少した。各種の個体数・被度も,ハシリドコロなど一部の有毒な植物を除いては全体的に減少した。調査地の周辺を含む秩父山地では2000 年以降にニホンジカの個体数の増加が報告されていることからも,本調査地の林床植生の減少は2000 年以降のニホンジカの急激な個体数密度の増加と関係していると考えられる。また,草丈が低い植物や生育期間の短い植物が比較的残存しており,植物種の生活史や形態によってもシカの採食の影響は異なる傾向が確認された。
著者
菊地 賢 金指 あや子 大曽根 陽子 澤田 與之 野村 勝重
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.457-464, 2015 (Released:2016-04-19)
参考文献数
22
被引用文献数
2 1

ハナノキは,東海丘陵地域に生育する落葉高木で,絶滅危惧II類に指定されている絶滅危惧種であるが,自生地域では街路樹としてよく植栽されている。こうした植栽木の中に北米原産の近縁種アメリカハナノキとみられる個体が混入し,一部で実生が定着している実態が明らかとなった。近縁外来種は,競争だけでなく,浸透性交雑や繁殖阻害のように生殖を介しても影響を与えるため,在来種の存続に深刻な影響を与える可能性がある。そこで外来種を同定するための簡便な種識別手法の開発を試みたところ,葉の形態的指標である LDIは,種間で有意差が見られたものの識別手法としては有効とはいえなかったが,葉緑体遺伝マーカーは種の識別に有用であった。さらに生理生態特性の解析から,アメリカハナノキは暗条件下でハナノキより高い光合成速度を示すこと,さらに,ハナノキとアメリカハナノキとが交雑可能であることが明らかとなり,アメリカハナノキの侵入可能性が示された。今後,アメリカハナノキの侵入拡大を未然に防除するために,早急に植栽混入の現状や流通経路を究明し,生物学的侵入リスクを生態・遺伝・生理等の面から評価する必要がある。
著者
中島 敦司
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.482-486, 2019-02-28 (Released:2019-07-27)
参考文献数
34

ニホンジカ(Cervus nippon)による自然植生への食害が全国的な問題となっている。そこで,既往文献にみられるシカ害やシカを取り巻く社会情勢,歴史についての情報を再整理した結果,シカが増加した理由に対する社会理解の中に,研究者も含め非科学的な思い込みが多く含まれることが明らかとなった。また,外来牧草による草地造成はシカの餌場となり得るもので,これに対抗するシカ害を引き起こしにくい緑化工法として,ススキ(Miscanthus sinensis)やチカラシバ(Pennisetum alopecuroides)などシカ不嗜好性の性質を持つタイプの地域性種苗の活用が有効であると考えられた。
著者
野島 義照 冲中 健 瀬戸 裕直 倉山 千春 二階堂 稔 高砂 裕之
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.168-176, 1995-01-31
被引用文献数
14 12

建築物の屋上を緑化することによる夏期の建築物および都市の温熱環境の改善効果を把握するために, 1993年夏に計測実験を行った。東京都内の9階建てビルの低層棟(5階建て)の屋上を対象として, カンツバキの植栽地, 舗装面, 机で日陰を作った舗装面の3箇所の温熱環境の違い, 植栽地の葉面からの蒸散速度等の測定を, 8月2日の曇天日と8月12日の晴天日に行った。その結果, 夏の強い日差しを受けた8月12日には, 日射を受ける舗装面では表面温度の上昇も建築物への熱流量も非常に大きく, それぞれの最大値が56.6℃, 507W/m^2に昇った。机で日射から遮蔽された舗装面では表面温度の上昇は相当緩和されて最高が32.6℃にしかならず, 建築物への熱流量は日中でおおむね50W/m^2程度であった。それに対して植栽地では, 植物による日射の遮蔽と葉からの蒸散による潜熱消費により, 地表面温度の上昇が大きく抑えられ, 14時前後に日陰舗装面よりも高くなった以外は日陰舗装面よりも相当低く, 建築物への熱流量も最高で33W/m^2とごくわずかであった。
著者
楠木 崇雄
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.319-323, 2019-11-30 (Released:2020-02-26)
参考文献数
3
被引用文献数
1

高速道路区域内の緑地では,非意図的に侵入した雑草の繁茂により,道路構造物や諸設備などの点検と維持管理に支障をきたす事例が増加している。そこで高速道路緑地における雑草害の概要を明らかにすることを目的として,日常的に現場の巡回と点検に従事している中日本高速道路株式会社グループ会社社員を対象とした雑草のアンケート調査を実施した。その結果,調査対象とした東名高速道路及び中央自動車道から分岐する各路線の全線でクズが発生しており,設備,施設の管理,点検,視認性,工事などにおいて様々な問題を引き起こしていることが判明した。
著者
河野 修一 江崎 次夫 原 浩之 村上 博光 木原 辰之 中山 累 寺本 行芳 金 錫宇 全 槿雨 松本 淳一 土居 幹治 村上 尚哉
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.119-122, 2020-08-31 (Released:2020-12-25)
参考文献数
4

集中豪雨で山腹斜面が崩壊した跡地に施工された筋工の平坦部に3年生のヒノキを植栽する際に,活着率の向上とその後の旺盛な成長を期待して,植え穴に「くらげチップ」約100 gを施した。10年後の施用区の樹高は722 cm,根元直径は112.2 mmあった。これに対し,無施用区のそれらは,それぞれ547 cm,84.8 mmであった。施用区と無施用区との間に枯損率,樹高および根元直径共に,0.1%レベルの有意差が認められた。このような相違が認められたのは,土壌改良材の持つ水分保持能力と分解後の栄養分が効果的に作用したことによるものと判断された。しかし,樹高と根元直径の伸長率は10年目で,ほぼ0に近い値となり,その効果の持続期間は10年程度と考えられた。
著者
白石 祐彰 津田 吉晃 高松 進 津村 義彦 松本 麻子
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.402-409, 2015 (Released:2016-09-09)
参考文献数
55
被引用文献数
1

土木工事により生じた大規模斜面における植栽の際には,自生集団の遺伝的多様性保全のために,自生あるいは遺伝的類縁性の高い近隣集団の種苗を用いるべきことが最近広く認知されている。埼玉県長瀞町および寄居町の送電鉄塔建設予定地において,生物多様性保全に配慮した緑化工を行う観点から,工事に伴う伐採前に採種して育苗したコナラ (Quercus serrata) を建設工事跡地に植栽した。この取組みにより,植栽集団 (実生 2集団) が自生集団の遺伝的多様性に与える影響を評価するために,マイクロサテライトマーカーを用いて植栽集団の遺伝的多様性や他集団 (埼玉県内の近隣 4集団および他県 3集団) との遺伝的分化程度について調査した。その結果,実生集団の遺伝的多様性は近隣の成木集団も含めて他集団と同程度であった。 STRUCTURE解析では埼玉県と他県集団には遺伝構造がみられたが,埼玉県内集団については全体で一つの地域交配集団とみなすことできた。これらのことから,建設工事跡地に植栽したコナラ種苗は自生集団の遺伝的多様性およびその地域性を維持しており,本取り組みによって自生集団の遺伝的多様性保全に貢献できたことがわかった。