著者
志賀 武彦
出版者
日本地質学会
雑誌
地質學雜誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.38, no.453, pp.308-310, 1931-06-20

大分驗大野郡小野市村木浦鑛山の通稱「だつがたを」より産する含水砒酸鐵鑛物については先に地質學雜誌上に報告され或は毒鐵鑛或は葱臭石等と論ぜられたが、其の分析結果並びに其の屈折率等より或は含水砒酸鐵の成分を有する新鑛物ならんと假定されて現在に至つた。今囘伊藤助教授の指示により目下編纂中の日本鑛物誌第三版のために、先年工學博士高壯吉氏より好意ある提供をうけ福地、牧野兩學士の手元に保管中であつた標本、並びに其後集められた當鑛物學教室所藏の標本について測角及び分析を行つて見た。測角は V., Goldschmidt の複圓式測角器を用ひρ及び〓を測定した。其の結果は第一表の如くなり、其の形態のみから見る時には斜方完面像に屬する。ρの基準面としては底面の(001)を、〓の其れとしては假定の(100)を〓=90°00' の面とした實測値並びに其の實測値よりの計算値を示した。尚表中のnの欄は實測に用ひた面の數を表はす。表中の計算値は先づ(011)及び(120)の面より軸率の 0.,865:1:0.,972 を知り之より公式により計算したものである。其形は第一圖に示す如く錐面式の晶癖を有し、錐面上には主に晶帯 [011] の方向に無數の條線を有する。時には (011), (201)等の面上にも上記の條線に相應せる條線を見得ることがある。之等條線は各個々の微斜面の堺を表はし測角の際に於ては之等が或は散點せる、或は連續せるリボン状の反射像を與へる。之等微斜面の分布は大體晶帯 [011] 上、(111) より (211)間に、又時には晶帯 [101] 上、(111) 附近になつてゐる。結晶に (100) の面の現はれてゐるものと之を有せざるものとの二種あつて、 (100) の面を有するものにあつては常に (211) の面を有し、且つ晶帯 [011] 上に分布する結晶面群が (100) の面の現はれざるものよりも著しい。以上を綜合して球面投影圖に示したのが第二圖である。又此の鑛物の分析結果は第二表に示した。表中の計算値は葱臭石の分子式FeAsO_4・2H_2Oより計算せるもので良い一致を與へた。尚この結晶水は山本理學士の好意により熱天秤を用ひて測定することが出來た。その實驗によれば水は約攝氏二百二十度より二百五十度の間に其の全部が放出される。其の結果は結晶水の量15.,84 となり分析結果と又よく一致した。試料の異れるため先の分析表のものゝ結晶水は差を取つてゐる。以上の結果及び其の他の一般性質即ち比重、硬度、劈開等より見て木浦鑛山産の含水砒酸鐵鑛物は葱臭石であると決定して差支へないと思ふ。尚この研究の結果は近く他に詳しく報告されるであらう。

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なんかすげえ OCR が正確だが。 > 葱臭石 http://t.co/n1wIx0f6Z7 「ダツガタヲ」は「駄積形尾」で推したい。

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