- 著者
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市川 浩一郎
- 出版者
- 日本地質学会
- 雑誌
- 地質学論集 (ISSN:03858545)
- 巻号頁・発行日
- no.18, pp.187-212, 1980-03-30
- 被引用文献数
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17
延長1000kmに及ぶ中央構造線(MTL)には,形成史の各段階ごとに地域的な特性が認められる。それにもとづいて,MTLを西から東へI-IVの4区に区分し,さらに亜区に細分した(図1)。とくに亜区の接合域における古第三紀の分岐断層の発達に注目した(図3)。MTL形成史には巨視的にみて,次の5段階が認められる。1:白亜紀前期を中心とする時期のI-III域での左横ずれ,IVでの右横ずれの卓越した変位。2:古第三紀前半(約65〜50 Ma)のI-III域での第2波の左横ずれの卓越した変位。第1,2期ともに三波川帯の上昇を伴う。3:古第三紀後半(前期中新世の一部を含む)(50〜20 Ma)。この期間の一部におけるI-III域(の一部)での逆断層運動,IIICでの左横ずれ変位。4:中期中新世-鮮新世(約15〜2 Ma)。中新世火山性盆地付近などでの局地的変位。5:第四紀後半のII域での右横ずれの卓越した変位。第1,2期におけるI-III域での変位の横ずれ成分は控え目に見積って数10kmのオーダーとなり,第四紀変位の横ずれ成分の推定最大量よりは一桁大きい。ただし時間のオーダーがちがうことに注意したい。以上の運動史をプレートテクトニクスの観点から説明するひとつの試みを示した(図2)。これは松田(1976)の見解と似ているが,白亜紀については異なる。第1,2期においては南側の海洋プレートにおけるNNW性の古伊豆非震性海嶺のサブダクションに伴う陸側での変形効果を重視した。第3期(太平洋プレートの運動方向転換期以後にほぼ相当)では日本海盆の開口と古い伊豆・ボニン島弧の北上効果とがMTL域ではとくにIIIC-赤石構造線に表現されたとみた。