- 著者
-
菊池 隆之助
- 出版者
- 日本スラヴ・東欧学会
- 雑誌
- Japanese Slavic and East European studies (ISSN:03891186)
- 巻号頁・発行日
- vol.21, pp.109-117, 2001-03-31
欧州環境閣僚会議でスロベニアは大気汚染を最大の環境問題として発言した。とりわけスロベニアでは石炭燃焼によるイオウ酸化物の大気中への排出が深刻化している。日本や欧米ではイオウ酸化物排出対策に脱硫装置が一般的に使用されるが、その対策としてスロベニア環境省は省エネルギーや天然ガスの普及を第一に掲げている。こうした実状を現地調査した結果、環境省発表の対策ではなく、発電所は低品位国産炭の使用を止め、高品位輸入炭に切り替えつつある対策を取っていた。この石炭代替政策はスロべニアの石炭業に影響を与え炭坑労働者から職を奪う可能性を含んでいる。それは15%の失業率をさらに引き上げることになる。またエネルギーの海外依存度も高くなり、外債を抱えるスロベニアにとって国際収支を悪化させることにもなる。環境改善のため、炭坑労働者は犠牲になってよいのか、自国産業を鈍化させてよいのかという命題をスロベニアの本ケースを基に考察し、環境と社会と経済を融合させる糸口を持続保存的開発の理念に立ち模索するものである。