著者
田村 道夫
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.127-131, 2001-04-02

はじめてこの植物について記したH.Eichlerは、Revision d. Ranunculaceen Malesiens(1958):53において、「Naraveliaのまだ記載されていない種がタイにある。この植物、Kerr 2903(BM,K)は茎の特徴や葉質ではN. siamensisに近く、葉は2回羽状複葉で、羽片は3小葉よりなり(全体で12小葉)、巻きひげがある。痩果は明るい褐色で、種子のあるよじれた部分は無毛である。CraibはFI. Siam. Enum. 1(1925):18において、この標本をN. siamensisとして引用している。さらにこの属の入念な研究が望まれる」と述べている。Kerr 2903は、大英博物館、キュウ王立植物園のほか、エジンバラ王立植物園にも保管されている。Naraveliaの花にはさじ状または棒状の花弁があり、葉の最下の小葉は全縁、先の3小葉は巻きひげに変化している。Kerr 2903は果実の標本で、痩果はNaraveliaと酷似しており,私もこの植物をNaraveliaと考え、N. eichleri Tamuraとして記載した(Tamura,1986)。その後、1995年11月末、当時、Huay Kaew樹木園にいたRachan Poomaより、変わったボタンヅル属の植物がQueen Sirikit植物園にあるので見にこないかとの連絡を受けたが都合がつかず、,翌1996年2月中旬に行った。その時、Huay Kaew樹木園にはR. Poomaと交替してPrasit Sa-adarwutがいたが、Queen Sirikit植物園のSawat Chantabunらの協力により、その時すでに果実になっていた植物を採ることができた(この時の標本Pooma 1926は私の採集品である)。その場所は、同植物園内600〜700mのMae Rim渓谷である。その果実は全くKerr 2903と同じであるが、葉には巻きひげはなかった。同年11月下旬、Chamlong Phengklai博士、P. Sa-adarwut、S. Chantabunらと行って花を探った。しかし、以前あった場所とは数10メートルも離れたところで、同じ場所ではなかった。花には花弁はなかった。1997年11月初旬にも、P. Sa-adarwut、S. Chantabunらと行って花を確認したが、その時もかなり離れた別の場所で見つけた。Clematisの分類には芽生えにおける葉序変化が重要な特徴となるので、痩果を探ろうとし、その年の11月上旬、翌1998年の1月下旬、さらに1999年1月下旬にも探したが見つからなかった。この植物の葉には巻きひげがなく、花には花弁のないことが分かったが、果実の状態はNaraveliaそっくりで、この植物こそKerr 2903に違いないと確信した。Kerr 2903の葉は大形で、3枚のタイプ標本を見ても巻きひげは見当たらない。Eichlerが巻きひげと思ったのは、多分、小葉柄、葉柄、細い枝などを見間違えたものと思う。また、Naraveliaの主葉脈は,葉の基部より少し上で分かれるが、この植物はボタンヅル属の多くの種と同様、葉の基部で分かれる。そこで、1997年秋、この植物をボタンヅル属に組み替えてClematis eichleri (Tamura) Tamuraとした(Tamura,1997)。このように、Queen Sirikit植物園の植物がなくなったので、ほかに産地はないかと調べてみると、Chiangmai大学の森林回復研究所(The Forest Restoration Research Unit)のJ.F.Maxwellが他の2ヵ所、すなわちDoi SutepのRu-See渓谷と、Doi Kunn国立公園のPah Droop滝で採集していることが分った。後者はかなり難しい所だというので、1999年11月30日、前者へ連れていってもらった。ところが、以前あった場所には無くなってしまっていて、新しい所で見つけた。先の場所と同じ渓流沿いの常緑広葉樹林のなかで、つるは高さ5m以上あり、太さは約1cmくらい、花は高い所に咲いていた。そして、2000年2月29日、やっとのことで果実を採集した。その時、葉はほとんど枯れてしまっていたが、ひょっとして株全体が枯死したのではないかと思った。しかし、ボタンヅル属には落葉性のものも多いので、さらに、同年6月28日、再びそこを訪れ、個体全体が枯死していることを確認した。一回結実性という性質はボタンヅル属では聞いたことがない。熱帯-亜熱帯広葉樹林において、このような性質がどのような役に立つのか分からない。しかし、これでこの植物が毎年花の場所を代えていた理由は分かった。その時採集した果実はChiangmai大学の森林回復研究所の苗園に播種し、現在、高さ40cmくらいに育っている。ボタンヅル属の芽生えには、始めのうち葉が互生するものと、始めから対生するものとがある。この植物の初期案序は互生しており、第5、または、第7葉あたりより節間が伸長し、葉は対生する。しかし、2枚の対生する葉の展開には大変差があり、少なくとも第15葉節あたりまでは、出来上がりは等しくても、1枚は完全に展開しているが、もう1枚はまだ小さいままである。次にこの種(Fig.1)の簡単な記載を示す。植物は蔓性で、大きくなれば高さ5mを越え、茎には縦に20以上の条がある。1回結実性、多分半落葉性。葉は草質で乾燥すれば黄褐色、30-50cm、そのうち葉柄は約10cm、羽状複葉で5-7個の羽片をもち、最下の羽片は3出、有柄、最上の

言及状況

Twitter (1 users, 1 posts, 0 favorites)

こんな論文どうですか? タイ国産ボタンヅル属の一新節(田村道夫),2001 http://id.CiNii.jp/PvzJL はじめてこの植物について記したH.E…

収集済み URL リスト