著者
田川 基二
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.139-148, 1940-09-30

13. アリサンハナワラビ(正宗) は正宗厳敬,森邦彦両氏が阿里山で発見せられたものである.正宗氏はこれを新属新種にして Japanobotrychium arisanense MASAM. と命名し上記の新和名と共に発表せられたが,後ハナワラビ属に移して学名を Botrychium arisanense MASAM. と変更せられた.私は昭和9年に台北帝大の〓葉室にあった基準標本を見せていただき,又霧社にある台北帝大の山地農場で採集せられた標本も今年の4月に見せていただいたが,このアリサンハナワラビはノウカウハナワラビの毛のある型即ち印度,錫蘭,支那(雲南),爪哇,ルゾンなどにある Botrychium lanuginosum WALL. であると思う.又ノウカウハナワラビ(早田)は最初早田先生がB. leptostachyum HAYATA と命名せられたもので,後中井先生はB. lanuginosum 即ちアリサンハナワラビの無毛の一変種にして学名をB. lanuginosum var. laeptostachyum (HAYATA) NAKAI と変更せられた.確に中井先生の卓見であると思う.この無毛の変種も中井先生によれば亦支那やヒマラヤ地方にあるという.台湾では両型共にやや稀な種類である.14. Mecodium productum (KUNZE) COP. は馬来群島に廣く分布している種類であるが,私はこれを台東庁台東郡の蕃地バリブガイ附近の密林中で発見した.我邦には新発見の一種であるから新に和名をホウライコケシノブと定めた.ツノマタコケシノブM. Junghuhnii (V. D. B. ) COP. に似ているが,裂片には先端に近く不明瞭な微鋸歯があり,総包片は卵形又は卵状長楕円形,鈍頭又は円頭,上半部には不規則な微鋸歯があり,〓床は細長い.15. チリメンコケシノブ(新称)Mecodium taiwanense TAGAWA sp. nov. は私が台東庁関山郡蕃地の内本鹿越線に沿う嘉々代駐在所付近の密林中で発見した新種である.比律賓のM.thuidium (HARR.) COP. によく似ているが,葉は小さく,裂片の幅は廣く且つ皺曲はそれほど甚しくなく,〓堆の総包片は卵形又は廣卵形,その先は鈍形又はやや鋭形で決して円形ではなく,〓床は細い円柱形でその先は太くなっていない.今日までに知られている台湾産の種類中に似たものを求めるならば別属ではあるがヒメチヂレコケシノブ(初島)Meringium denticulatum (SW. ) COP. がある.しかしチリメンコケシノブでは皺曲は遥に甚しく,辺縁にはルーペで認めうる程度の微鋸歯しかなく,〓堆の総包は殆んど基部まで裂け,〓床は短くて総包片の半にも達していない.

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